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2010年12月13日(月)
『武満徹トリビュート〜映画音楽を中心に〜』

『武満徹トリビュート〜映画音楽を中心に〜』@オーチャードホール

第一部:大友良英プロジェクト
『どですかでん』
『燃えつきた地図』
『乾いた花』
「翼」
「○と△の歌」
『怪談』より「耳無し芳一の話」

トークショー:片山杜秀、大友良英、菊地成孔

第二部:菊地成孔プロジェクト
弦楽四重奏のための「枯葉」
ピアニストのためのコロナ
2つのバンドネオンとテープ音楽のための「クロス・トーク」
映画『アルファビル』より「Valse Triste」〜映画『8 1/2』より「E Poi(Valzer)」〜映画『他人の顔』より「ワルツ」
「武満トーン with マンボ」〜「京マチ子の夜」
『怪談』へのオマージュ(『怪談』と『砂の女』のマッシュアップ)
映画のための「L.A., New York, Paris, Rome, Helsinki」
encore
「めぐり逢い」

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えーとこれで合ってるかな?『怪談』へのオマージュがどこに入ってたかちょっと怪しい。この流れだったと思うんだけど…。

菊地さん曰く「生前交流もあった(文通してたんだよね/そう…当時はほら、メールなんてないから)武満ラヴァーのおおともっちと、武満初心者の僕。僕は一夜漬けならぬ一ヶ月漬けです」な武満徹トリビュート。いやー面白かったー!再演あればいいのにー!面子が面子だし、武満徹生誕80周年と言うタイミングもあったので、今後は難しいかなあ。しかし一回限りだからこそ、でもあった。

あらゆるフィールドから演者を招聘し、音源再現に即興を持ち込んだ大友さんと、自身の楽曲と武満の楽曲とのマッシュアップを試み、自身のバンドで演奏した菊地さんと言う全く違うアプローチの二部構成と言うのもよかった。そしてどちらもいつもの大友さんと菊地さん。ちょーっとだけ菊地さんがかりてきたねこみたいだったかな、これも貴重ですな。だいたい大友さん、数日前にTwitterで「衣装まよってるなう」なんて書いてて、オーチャードホールだから盛装?ひょっとして初めてスーツの大友さんが見られる?なんておろおろしてたんですが、出てきてみれば普段と全く同じ(笑)。件のツイートの後に「ちなみに、3つ持ってるパーカーのどれにするかまよってるなう」て続けてたらしいけど見逃してたよ。一瞬残念と思った反面ホッともしました、ははは。

あ、それで思い出した。菊地さんの方はスーツではあったけどノータイでちょっとラフな感じ。盛装のPTAメンバーを見て「きみたちなんで盛装なの…カジュアルでって言ったじゃない……俺だけ浮いちゃうよぉ」なんてぼそぼそ言ってて、ここでかりてきたねこ度がますます上がったんだ。Ss演奏したのもレアだったし(楽器もかりものだったとか)、ちょっと音が安定していなかったところや歌のピッチがズレるところもあったりして、おお?どうした?みたいな。マウスピースを気にもしていたし。珍しく緊張していた感じもしたし。しかし流れにのればやっぱり菊地さんなのであった。

そんな訳で大友セット、剥き身のおおともっち。ギターを携えてニコニコと登場、メンバーが揃ったところで「じゃ、はじめましょっか」。素で話してますけどそれマイク通ってます……もうずっとこのノリで、「○○を知ってるひとどのくらいいますか?(と客席を見渡そうとする)…あ、見えないやピットインじゃないから」とか言っててもう面白過ぎた。『どですかでん』で幕開け。ウクレレユニットパイティティと近藤達郎さんのハーモニカをフィーチュア、まずは武満作品の美しいメロディを提示。続いてPTAの弦楽カルテットと大友さんのTTによる『燃えつきた地図』、一気に即興度が増す。Sachiko Mのサイン波、相当な微弱音なのにすっごく綺麗に聴こえる!そういやオーチャードって、三階席にいても、ステージ上で針を落としたら聴こえるんじゃないかって程音の返りがいいんだった。

白眉は『乾いた花』。「冒頭の賭場のシーンですね。すごく格好よくて…もとの作品もタップの音を使っていて、いつかステージで再現したいと思ってて…でもわたしにはタップダンサーの知り合いなんていなくて(笑)でも、去年、出来たんです、タップダンサーの知り合い!(満面の笑み)そうだ、これで出来る!と思って!」あはははは、熊谷さんを紹介してくれて有難うカヒミさん!熊谷さんのタップからリズム出し。静かに、しかし膨大な打撃音が低く地を這うように滑り出す。そこへ芳垣さんが並走、アイコンタクトでブレイクを決めた時にはぶわっと鳥肌立った!ブレイク後間髪入れずTTとギターのノイズ、一瞬の空白にサイン波がドロップ、沈黙にぱっと咲くカヒミのウィスパーナレーション。大友さんのキュー出しで音が動く動く、ヘンな例えだけどバスケットボールの試合みたいなスピード感。攻守がコンマ何秒かで入れ替わり、パスを受け取った演者は一気に走る。ホールの鳴りもいい!どこ迄も走っていけそうだ、曲がいきものになって、演者がそれにドライヴしてる。いつ迄でも続けられるんじゃないの…ああでもここで終わりかな、フェイドアウトしていく、照明も落ちていく……とそこでニヤッと笑った大友さんが腕を振った!続行のサインです。熊谷さんの「うへっ」って笑い声が聴こえたよ(笑)。そして再びのフェイドアウト、エンドマークはカヒミが刻む、「こんな悪い夜、好きよ」。……「くくっ」と笑った熊谷さんが身体の力を抜いて姿勢を正し、一瞬の沈黙。……割れるような拍手!

「えへへ、あんまり楽しかったんで延長しちゃった。照明さん段取り破ってごめんなさい」と大友さん。……これはホントすごかった、再演の機会があればいいのに!

浜田真理子さんの芳醇なうた「翼」「○と△の歌」でしっとりとクールダウン。保湿…ううう、うるおい。この緩急織り交ぜた構成も素晴らしかったなあ。

そしてラスト、『怪談』より「耳無し芳一の話」。この作品では、楽曲だけでなく録音、音効も全部手掛けたと言う武満さん。映画音楽としては残されている録音されたものを聴けばいいけれど、ライヴで再現するならば音が発せられた過程も作品として見せたい、舞台作品として成立させなければと思った、と言うようなことを大友さんは仰ってました。果たして舞台上に現れたそれは、田中泯の踊りと西原鶴真の琵琶語り、「物音」の飴屋法水を招くと言うもの。平家の怨霊としての田中さん、芳一を体現する西原さんの応酬はそらもう夢に出そうな凄まじいもんでしたが、個人的には効果音を発する存在として飴屋さんを迎えたってのが大友さんすごいと言うか流石と言うか。過去何度か「物音」として大友プロジェクトに参加している飴屋さんですが、今回はまさにドンピシャといったところ。実際それがパフォーマンスとしてズッパマリだったと同時に、音程を捉えた効果音を発しているように聴こえた(実際そうだろう)ところに恐れ入りました。

もうこの作品、聴きどころ見どころあり過ぎて途中からどこ見ればいいかわかんなくなったよ!目と耳が10個くらいほしかったよ…(泣)うわーんこれも再演してほしいー。

その飴屋さんの音出しはと言うと、まつぼっくり?や陶器を擦り合わせたり、箱に果物を入れて振ったり、陶器に硬貨を落としたり、鐘(これが唯一楽器っぽいと言えば楽器ぽかった)を鳴らしたり。このタイミングと音程が絶妙。多分聴くひとが聴いたらちゃんと譜面に起こせると思う。他パートと合わせても不協和音にはならないと思う。終盤は骨壺を出してきて、マジックで文字を書き出した。「おばけ も」迄しか読み取れない、何て書いてある?おばけもいる?おばけもおどる?おばけもいっぱい?終演後ご本人のツイートで「おばけ もののけ ひと」と書かれていたと知る。その後しばしの間を置き、カナヅチでパーン!と粉砕してしまった。白い煙が立ち上る。隣のSachikoさんの方に迄破片が飛び散って、Sachikoさん笑ってはった…(苦笑)しかし音出しとしてはある種の解放感すらありました。ここからクライマックス、と言う絶妙のブレイクになった。

骨壺は多分本物だろう。飴屋さんならそうだろう。となると、あの中に入っていた骨は、数年前亡くなったお父上のものだろう。割れた骨壺の破片と、中に入っていたであろう骨らしきもの(と言うか、あれは骨だ。きっと。本物の遺骨だ)を机に落として音を作る。琵琶法師の耳は奪われ、怨霊は闇へ戻っていく。客席にも戸惑いみたいなものがあった。もうポカーン気味です、あまりにもすごいもの観ちゃったので…音が消えて大友さんがにっこり笑うのが見えて、我に返ったように拍手と歓声。撤収作業に入っている飴屋さんに田中さんが笑顔で話しかけていた。飴屋さんは抜け殻のようになっており、うまくコミュニケーションがとれていないようだったけど、そこらへんは田中さんも了解しているようで、そのまま退場していった。

丁寧に楽曲解説と演奏者について話す大友さん、すごく嬉しそうで楽しそうだった。このメンバーで、武満作品を演奏出来ることを心底喜んでいるのが伝わってきて、こちらもニコニコして観てしまった。反面演奏はテンションパツパツに終始、すごい緊張感。すごく体力使った、どっと疲れた。

ど、どうしよう、長い!終わらん!菊地さんの方は明日以降に書きますわ…眠い。