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2010年04月03日(土)
『四谷怪談忠臣蔵』

猿之助四十八撰の内『四谷怪談忠臣蔵』@新橋演舞場

猿之助一派初観劇。いやあ、覚悟して行ったんですが、濃い!すげー面白かったんですが、体力吸い取られた感じで帰宅後即沈没、お岩さんに憑かれたかってくらい寝た。お岩さん、憑くなら伊右衛門に憑いてください……。

と言う訳でタイトルの通り南北の『仮名手本忠臣蔵』と『東海道四谷怪談』を一挙上演すると言う着想から、脚本の石川耕士さんがさまざまな創作を加えた(ご本人曰く「綯い交ぜ的パロディ気分は歌舞伎の本質」)もの。右近さんも冒頭の口上で仰ってましたが、どちらも通しで上演すると一日ずつ、計まる二日かかるものを半日に凝縮したもので、ごちゃまぜてんこもりなボリュームです。時間的には四分の一になっている訳ですが、内容はその分凝縮も凝縮、もうぎゅうぎゅう!展開早い!一幕でもうお岩さん死んでしまいますもん。『東海道四谷怪談』では見せ場になるお岩さんの薬飲むシーンや髪梳きのシーンは省略され、とにかくスピーディー。その分運命のようなものに翻弄されるひとたちの哀れさが際立ちます。お岩もお袖もみるみるうちに身を持ち崩し、その果てにあんなことになるんだもんね。で、その身の落とし方がかなり直截的にえげつなく描いてあったので結構ヘコんだ…淫売宿で与茂七と遭っちゃうとことか、直助と通じることになるとことかさー…む、むごい……。

普段の上演では省略されがちな三角屋敷の場や天川屋義平内の場があり、直助とお袖の末路や、塩冶浪士(赤穂浪士)たちが討ち入りの際使う合い言葉の由来等が分かるエピソードが観られたのも面白かった。同時に上演されることで、忠臣蔵の外伝としての四谷怪談が解りやすくなる部分も多かったです。その逆も。なんで小平って薬をあんなにほしがってたんだっけ?とか、伊右衛門ってなんで四十七士に入らなかったんだっけ、とか。

そして前述の“パロディ”部分が突飛でまた面白い。なんで師直(吉良)があんなに塩冶判官(浅野)に意地悪したかってのが、師直に新田義貞の霊が取り憑いていたからと言う感じで、とにかく幽霊がバンバン出てくるんですよ。あと通常では伊右衛門って蛇山庵室の場で苦しみ抜いてその後与茂七に討たれるんですが、『四谷怪談忠臣蔵』ではこのシーンがないので(?)いきなり討ち入りの場面に伊右衛門が混ざって出てきて高家奥庭泉水の場(吉良邸)で落命するって言う。おまっ仇討ちなんてやんね〜とか言っといてなんでここにいるねんって言う。そしてここにもお岩さんが出てきて与茂七の加勢をする(笑)。あと鰻掻きのシーンで「首が飛んでも動いてみせるわ」って台詞が出たり。

演出はとにかく派手!猿之助さんが出演もされていた頃(いや、これからもいつかはまた出てほしいですが…)のスーパー歌舞伎は見逃しているので、こんだけドカンドカンの演出は初めてでもうすごいを通り越して笑ってしまう場面が沢山あったよ…と言うか全体的に客席がウケていたりもしたのでああいいんだなと思ったり(笑)。伊右衛門と与茂七の斬り合いなんて、途中でどちらも刀が飛んで、素手でボコボコやりあって、続けて雪合戦なんだもんゲラゲラゲラ。ここらへんはもう客席からドッと笑いが湧いてドリフのようだった。あとあれは演出なのか猿弥さんの芸風なのか、宅悦のビックリっぷりがもうすげートゥーマッチなの。面相が崩れたお岩を見て「きえ〜〜〜〜ッッッ」と言いつつ鏡を無理矢理見せようとするし(お岩さんいやがってんのに!)もみあいになって「きゃーーーーーーッッ」「ひいーーーーーーーーッ」ってもう、深刻なシーンなのにだんだんおかしみが…面白かった……。宙乗りも本水使いも派手でよかったなー。

本水と言えば、いのうえ歌舞伎の『朧の森に棲む鬼』をふと思い出したんですが、この作品で惜しい!と思ったのは本水使いのシーンだったんですよね。画ヅラの迫力は素晴らしかったんですが、水の音がとにかく大きく、台詞が全く聴き取れなかったのです。『四谷怪談忠臣蔵』での水を使う場面は、台詞は皆無で立ち回りだけを見せていました。『朧〜』は初演だったし、台詞で情報を伝えなければならない部分も多いし、展開も早い。一方『四谷怪談〜』は皆ある程度ストーリーを知っているし、予習してくるひとも多いし、イヤホンガイドと言うものもある。作風の違いもありますが、見せ場として水を使う演出の難しさを考えさせられたシーンでもありました。

初演で猿之助さんが務めた役は右近さんが引き継ぎ、段治郎さんは膝の手術後一年振りの舞台。猿弥さんも倒れた後だし、彌十郎さんも昨年秋体調を崩されていたので心配でもありましたが、皆さん舞台上では全くそんなことを感じさせない(実際終演迄忘れていた)迫力でした。彌十郎さんの大星由良之助(大石内蔵助)が観られて嬉しかった…格好よかったよー。扇ヶ谷塩冶館の場での皆に意見を問うところ、天川屋義平内の場で皆をまとめるところ、素敵だったー!彌十郎さんが澤瀉屋さんとこでやるのは十四年振りだそうです。滝乃屋の門之助さんと大和屋の彌十郎さん意外は殆ど澤瀉屋の今回の舞台ですが、彌十郎さんは猿之助さんのもとで演出助手を務めていた時もあったそうで、今回の役の話が来て感無量だったとのこと。ううう(涙)。

■小ネタ
・今回の舞台では殆どが澤瀉屋のひとたちなので、大向こうが屋号だけだと「澤瀉屋!」「澤瀉屋!」ばかりになってしまうのを考慮してか?役者さんの名前を呼ぶものも多くて新鮮だった。「段治郎!」「猿弥!」みたいな
・雪の場面では黒子ならぬ白子がいた。そりゃそうだ、黒だと逆に目立っちゃうもんね(笑)