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2009年05月01日(金)
『ステップ・アクロス・ザ・ボーダー』

『ステップ・アクロス・ザ・ボーダー』@シネマ・アンジェリカ

フレッド・フリスのドキュメント。1990年の作品ですが、今年1月のライヴでフリス初体験だった者には嬉しい上映です。『茂木綾子+ヴェルナー・ペンツェル特集』の中の1本。ヴェルナーが設立したシネマ・ノマド第一作が『ステップ〜』だったそうです。

ドキュメントではあるものの、曲作りやライヴに到る経緯、人物紹介等は一切ないので、多彩なプレイヤーが登場しても判らないひとが多かったのが残念。フリス、アート・リンゼイ、ジョン・ゾーンくらいしか判らなかった…林英哲さんはエンドクレジットで気付いたくらい。てか皆若い!ゾーンなんて楽器持ってなかったらわかんなかったよ!フリスもこないだ観た時は体格のいいおじいちゃんて感じだったのに…1990年なんて最近じゃんねえと思ってたがよく考えると20年近く前ですわね…ひいー。リンゼイはあんまり変わってなかった。と言うか、リンゼイは80年代から知ってるからなあ(笑)

そのリンゼイが「即興音楽家は孤独な稼業」と言っていた。いろんな国に行って、演奏して、また移動。即興なのでその場限り。フリス曰く「音楽で世界を変えることが出来ると思っていた。今はそうは思わない。でも、ある夜ある場所で演奏した後、お客さんが今日の演奏はよかったよ、と声をかけてくれることって、その時にしかないかけがえのないものだろう?」

こどもと楽器をいじって曲作り、ねこのいる部屋でフレーズ作り、おでんを煮ている屋台で音楽談義をし、商店でごまや豆を買っている。旅先で自炊でもするのかと思ったらそれも楽器で(1月のライヴでもコンパオレがお米使ってたなあ)、台所で演奏が始まる。その音と街の音がクロスする。電車の走るリズム、地下鉄構内での打楽器演奏、弦楽器と海辺を飛ぶ鳥の鳴き声のハーモニー。映像から音楽が溢れてくる。東京のスクランブル交差点の雑踏音、熊手で描く枯山水(龍安寺かな)、鹿威しの響く池。フリスの演奏から離れて行く音も、映画の中では違和感なく存在している。演奏のリズムに街の音を重ねて行く展開がとても面白かった。

セッション風景もありましたが、結構ロック寄りだったのに驚いた。これもやっぱりリズムがキモで、ビートがあると(ドラムだけでなくヴァイオリンのピチカートやギターのカッティングも)グルーヴが生まれ、ステップが生まれる。フリスは演奏だけでなくコンダクターを務めることもあり、そこでもビートを大事にしているように感じた。

即興音楽家は孤独な稼業。移動、演奏、また移動。出会うプレイヤー、居合わせるオーディエンス、それはその時その場にしかおこらないこと。フリスは移動し続けている、また日本にも来てください。