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2003年11月19日(水)
『HAMLET』

『HAMLET』@シアターコクーン

1年に2度、違う演出で観られるとはラッキー。諦めかけていたところいきなり2日前にキャンセル分を確保出来てラッキー!以下多少ネタバレしているので未見の方はご注意ください。

今回の『HAMLET』は「父を失った4人の若者たち」の部分を突っ込んでみる試みだったそうで、フレッシュ(笑)なキャストも相まって若々しく、とても解りやすい仕上がり。

この「解りやすい」ものにすると言うのは、実はとても難しいことだと思う。そもそもシェイクスピアとなると「余計な台詞が多い」「退屈」と思われがちで敬遠するひとも多いようだが、蜷川演出は「この話のどこが面白いか」のキモを掴むのがうまい。力技みたいなところもあるけど(笑)見せ切る力はやはり強力。だからある意味原点でもある。シェイクスピア作品の面白さを知るには最適。その後いろいろな解釈のものを観ていって、もう一度蜷川演出に戻ると「なんて解りやすいんだろう!」と思うことが多い。傲慢さがないとも言える。戯曲を素直に舞台に載せると言うのは、意外と難しい。やっぱり「俺の解釈はこうなのだ!どうだお前ら、俺ってすごいだろう!」ってのをやりたくなるもんじゃないですか、もの作るひとって(笑)

この作品は演出プランによって近親相姦的な部分がクローズアップされることが多いのだが、今回はそれよりも、父親を失った者同士が憎み合いながらも魅かれ合い、逡巡するところがより印象に残った。その「共感」のようなものが、最後のフォーティンブラスとハムレットのキスシーン(デカいネタバレ故反転)に現れている気もする。結構インパクトがあった。客席もあの一瞬は息をのみましたよ(笑)

終盤、フォーティンブラスの軍が凱旋して来た時は、2001年9月の蜷川ハムレットの話を思い出した。2001年版は未見なのだが、同時多発テロがあってから数日後にラストの演出が「フォーティンブラスがホレイシオの願いを聞き入れず、その場にいた全員を射殺する」と言うものになり、物議を醸していた。「こうしないと現在に負ける」と言う判断からの変更だったそうだ(このパターンは、以前イングマル・ベルイマンの演出でもあったとのこと)。銃を構えた兵たちが、客席のあちこちに立っている緊張感は、芝居と言えども怖いものを感じた。しかし今回は、フォーティンブラスはホレイシオの言葉を受け継いでくれる。なんだか優しさと虚しさの入り交じったような気持ちが残る幕切れだった。フォーティンブラスはこれからも沢山ひと殺すんだろうなーとか。明るい未来の象徴のような役なのに、観る時期や環境によって印象が変わるものだ。

と書くと、戯曲を素直に…ってのと矛盾してくるように見えるが、「古典を今の時代に上演すること」を主眼におけば、何ら疑問はないように思える。当時もきっと、世界情勢によって、戯曲の行間は刻々と変化していた筈だ。演劇は現在を映す鏡とはよく言ったものだ。

役者陣に関しては、やはり藤原竜也くんが凄かった。ハムレットは30歳の設定なのだが(テキストの版によって19歳説もあるが)、藤原くんのハムはフレッシュ!でも違和感なし!好き〜☆な役者さん、と言う訳ではないけどやっぱり凄いなあこのひと、と思わせられる。井上芳雄くんはストレートプレイは2度目くらいだそうだが、かなりいいのでは?小栗旬くんは少ない出番でインパクトを残さなければならない役だからか、かなりダイナミックな芝居っぷり。衣裳や髪型も相まって、ロックスターのようだった(笑)。鈴木杏ちゃんは狂いっぷりよりも、前半の父ちゃんに振り回されて困惑気味な娘さんってな感じの方が魅力的でした。「おとうさまめちゃくちゃ言ってる〜」と突っ込めないところがまだまだ幼い子って感じでねえ。か、かわいそうに。

高橋恵子さんはズルい女的なガートルード。子供はかわいいけど私は保身もあるし〜って感じで面白かった。昔から思ってたけど、マクベス夫人よりもガートルードの方が私は悪女だと思うんだよなあ。西岡徳馬さんのクローディアスは後悔してませ〜んって感じが◎。嫌だこんな男〜!(いや役がね)たかお鷹さんのポローニアスは、マクベスでの勝村さんのようにトゥーマッチな部分があって、大真面目なのに笑ってしまいそうになるシーンもあったが(死ぬシーンであんな、「やられた〜!」って絶叫されちゃあ(笑))、バカ父ちゃんのキャラに合ってて面白かった。

高橋洋くんはホレイシオ。予想当たったー(嬉)このひとの穏和さ、落ち着きみたいな部分がとても魅力的なホレイシオ像を作り上げていて嬉しかったな。

以下こまごました部分を箇条書き。

■ポローニアス家がなかよし家族な感じでとっても微笑ましかったので、彼らが破滅していくさまはとっても悲しかった。おとうさんがちょっとおバカさん(笑)でね、憎めないんだよねー。でもあんな父ちゃんじゃ娘も頭がおかしくもなろう…
■ロズギル、予想は外れてニナガワカンパニーダッシュの新川さんと中山さんだった。イケメンです!(笑)そして衣裳も髪型も歩み寄っていて、より見分けがつかなくなってます!(笑)ここらへんのドタバタっぷりはウケたなあ
■劇中劇のやり方が面白い
■フェンスはもうちょっと使い方があったような気もする。アイディアは面白いと思うが勿体ない気も
■蜷川さん、せめて年5本くらいにしませんか、演出の仕事。体調面も心配だけど、今年は「もうちょっとじっくり…」と思わされる作品もあったのでなあ
■余計なお世話ですか、そうですか(涙)

6月に上演されたジョナサン・ケント演出=野村萬斎さんハムレットとの違いも面白かった。脚本は同じ河合祥一郎さん訳のものだが、演者の違いも考慮してか、よりオーソドックスな台詞まわし。例えば萬斎ハムの時ウケた「狂言役者の仲間入り」は、普通に「役者の仲間入り」になっていた。

うーんリピートしたいな…センターステージだけにいろんな角度から観てみたい。立ち見なら立ち見で面白いものが観られそう。