休業の挨拶もすませたし、家の中の片付けや諸々の準備も整って、 家に閉じこもっている。
電話の音にもナーバスになり、めったに出ることはない。 普段ならできるだけ親身にと努める身の上相談も、すべてシャットアウトした。
まったく大げさな態度で、異常行動めいている。 しかしこれが、命を生み出す時の自分のスタイルだから、どうしようもない。
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近しい人々には本当に申し訳ないが、私はもう、ここにいて、ここにいない。 生と死が交じり合う、深い海の底にいる。 一切聞こえず光もささない暗闇に身を横たえて、静かにその時を待っている。
高くジャンプするいるかは、まず深く潜らなければならない。 私はこの作業を、大陸棚あたりの浅瀬で適当にすませることはできないのだ。
そういう理由で、私は今、 生と死の混沌から命を連れ出そうとしていることを明確に意識している。 セールス電話にでている場合ではない。
あと何日かしたら、私は新しい子を抱いて、 太陽の光がふりそそぐ水面へと浮上しなくてはいけない。
死の世界に引きずられることなく、途中で力つきることなく、 子どもに光を見せ、呼吸をさせ、重力の世界へ導いてやれるだろうか。
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暗闇の水底にいて、待っているから心置きなく過しなさいという水上からの気配をいつも感じている。 この暖かい気配に守られなければ、私は決して水面に戻ることができない。 送られてきた気配に返事すらできないが、そういう気配にこそ、すがるような気持ちでいる。
2006年04月23日(日) 花のワルツ 2005年04月23日(土) 親業セーフ 2004年04月23日(金) 検分上手な話
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