家路を辿る前に時間があったので、 分不相応なディナーを楽しむことにした。
重たいドアが開いて、薄暗いフロアに案内される。 時間が時間なのでまだ客は少なく、天井の高いしんとしたテーブルで、 フォアグラを喰らい、サーモンのソテーとホロホロ鳥のグリルを味わう。 ソースの一滴も残さず胃袋に収め、 使っていない皿のようになって、厨房にもどってもらう。
デザートの蜂蜜のアイスクリームは、懐かしいレンゲ蜜の風味。 紅茶で最後を締め括り、恍惚感に酔いしれる。
久しぶりに美味しいものを食べましたよ、とマネージャーらしき人物に告げると、 業務用の−申し分なく丁寧な−反応で、ありがとうございますと返ってくる。
もうあと5年いや10年は、食事において豪奢な変化球はなくてもよいだろう。 何ならば、あと10年ずっと、白い飯とごま塩だけだとしても、 今日この日の記憶があれば、美食などとは無縁でいられるだろう。
まあとにかく、そのぐらいメモリアルなディナーだったというわけである。 逆に言うと、こういうものは10年に1度ぐらいが丁度いいのかもしれない。
2006年09月21日(木) 火災で発芽促進する植物 2005年09月21日(水) 最期のカード 2004年09月21日(火) それでも地球は回る
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