2012年08月15日(水) |
伊織の手紙−海より−(仮)・13 |
子どもはいた。 ピンクの水着に同じ色のリボンをした女の子。ウィルくんから聞いた特徴と全てが一致している。 まずは浮き輪をなんとかしないと。 泳ぎはお父さんから教わっていたから人並みにはできる。でも小柄とはいえ人を抱えて長距離を泳いだことはない。今のわたしに果たしてできるだろうか。 そんなことを考える余裕もなくて。まずは浮き輪を捕まえることに専念する。幸いすんなりと浮き輪の端をつかむことに成功した。 「もう大丈夫だから」 子どもに近づいて声をかける。でも子どもはパニック状態で手をのばすと必死になってしがみついていた。 とりあえずこの状況をなんとかしないと。 捕まえた浮き輪を子どもの体に通して。流されないように浮き輪の端をつかみながら泳ぐ。 「……?」 途中で足首に違和感を覚えて泳ぎをとめる。止まっていれば平気なのに、泳ごうとすると再び鈍い痛みがおそってくる。もしかしなくてもさっき飛び込んだ時にひねったんだ。よりによってこんな時に! 「大丈夫。お姉ちゃんと一緒に帰ろうね」 でも泣き言はいってられない。安心させるために笑顔を作って岸に向かって泳ぐ。 距離が進むに比例して足首の痛みもひどくなる。浮き輪をつかんでいた手もだんだんしびれてきた。だからどうした。そんなことはいってられないんだ。今は少しでも早くこの子を助けないと。 ふと子どもの泣き声がしなくなったことに気づいてふりかえる。シャーリィは浮き輪から再び離れていた。長い間海に流されていたんだ。ましてや子ども、体力がなくなってもおかしくはない。 「シャーリィちゃん!」 浮き輪を離して再び子どもに近づく。残りの力で子どもを抱き上げて、浮かび上がって泳ぎをすすめて。 でもわたしの体力のほうが限界だった。
お願いリール様。わたしはどうなってもいいからシャーリィちゃんの命だけは助けてください。
視界に誰かが叫んでいるような気配を認めたような気がした。
過去日記
2005年08月15日(月) お盆にまつわるえとせとら 2004年08月15日(日) 砂漠にまつわるエトセトラ・その3 2003年08月15日(金) つながった!
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