2012年04月11日(水) |
白花(シラハナ)への手紙(仮)・62 |
「琥珀?」 「知ってるんですか?」 知ってるもなにも、わたしの国で売られていた飲み物だ。白花造りの建物もだけど、異国の地で祖国の飲み物にこんなにも早くお目にかかれるとは思わなかった。 透明な瓶のふたをあけてこくこくと飲んでみる。文字通り琥珀色の液体は懐かしい甘みとほんの少しのほろ苦さがのどに残った。ちなみにお父さんはお風呂上がりに買いだめしてあったこれを腰に手をあてて一気飲みしていた。 「琥珀を知ってるたぁ、おまえさん通だね」 声にふりかえると、そこにはパティさんと同じく着物に身をつつんだ男の人がいた。 「ん? 見慣れない顔だな。もしかして白花のもんか?」 「最近こちらに来られたそうですよ。ソハヤさん」 年配と呼ぶには若い成人した男の人といった感じ。着物に描かれた紋様は。 「『明けの藤笠(ふじかさ)』!?」 「そこまで知ってるたぁ、ますます通だな」 同郷と同じ黒の瞳が軽く目をみはる。知ってるもなにも、ミヤコ地方を通り過ぎた時に、しばらくはこの味を味わえないだろうからってお父さんと一緒に食べた。白花でも一、二を争う都地方での人気菓子店。後から聞いた話だと、白花であつかっているお菓子はこちらだと『和菓子』と呼ばれるんだそうだ。 「お父さんが大好きで、都を訪れるたびにお土産を買ってきてくれていました」 それにしてもお父さん、祖国はティル・ナ・ノーグのはずなのに白花の文化に詳しすぎる。 「それじゃあお得意さんってわけか。こんなところで白花の人間に会えるなんてなあ。ちなみにおまえさん、白花のどこの生まれだ?」 「カルデラです」 「カルデラか。あそこからここまで来るのは大変だっただろ」 その後、故郷についてソハヤさんといろんな話をした。やっぱりソハヤさんは白花の都地方の生まれで気になっていた家紋は都の老舗お菓子店の紋様だった。元々はお店の身内だったけれど、ティル・ナ・ノーグに来たことで転じて大衆浴場を経営することになったんだそうだ。 「ソハヤさんどうされましたか?」 つい故郷の話でもりあがっていると、鈴を転がしたような心地よい声が耳にとどいた。 「あら。そちらの方は気分がすぐれないのかしら?」 「あ」 ユータスさんのことをすっかり忘れていた。
過去日記
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