2012年02月05日(日) |
白花(シラハナ)への手紙(仮)・22 |
ティル・ナ・ノーグへくる途中の船で魔物に襲われた。 服も見事にぼろぼろになってしまったから、なけなしのお金で服を買って。さらに加えれば、当時のわたしの髪は短かった。 「ごめん。まさか女の子だとは思わなかったから」 リオさんが両手を合わせて謝る。うまく聞き取れなかったけど、あの時渡されたのは男の子用の服だったのか。 「疑問には思わなかったんですか?」 『特には』 「……もういいです」 わたし、宮本伊織(ミヤモトイオリ)は東国の白花(シラハナ)生まれシラハナ育ちではあるものの、れっきとした15歳の女の子だ。男の子に間違われるなんて心外――と言いたいところだけど、残念ながらこれが初めてじゃない。言動が男の子っぽかったらしい。子どもの頃は病気がちで近所の男の子達にからかわれたり時にはいじめられそうにもなった。そうならなかったのはお父さんが体術を教えてくれたから。『これを覚えれば男の子にもからかわれないですむ』って言われたから必死に覚えて。結果、男の子よりも強くなってしまった。だから今度は『男の子みたい』って言われるようになって。それからも色々あって最終的には同年代の男女の中で誰にも負けないくらいの体術と体力を身につけてしまった。 その代償として、周りの女の子達が色恋沙汰にはしゃいでいてもわたし一人蚊帳の外って事態にもなったんだけど。その辺は思い出さないことにしておく。ましてや当時の髪は短くて。 「ジャジャ爺ちゃんはリオさんに用があったんじゃないんですか?」 不快な空気は早めに壊した方が良い。助け船とばかりに爺ちゃんに声をかけるとそうじゃったのとうなずきを返した。 「いつものやつを頼もうかのう」 「時間は?」 「久しぶりじゃからな。みっちり頼む」 「わかった。じゃあ準備するよ」 『いつもの』で、かつ『今のわたしに必要なもの』ってなんなんだろう。
答えはほどなくしてお目にかかることとなった。
過去日記
2010年02月05日(金) 「世界観構築における100の質問」その5 2008年02月05日(火) 02. ロマンス・グレー(中年男性の白髪まじりの頭髪のこと)のおじさん 2004年02月05日(木) 「EVER GREEN」5−1UP
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