2012年01月04日(水) |
白花(シラハナ)への手紙。3 |
よりよい環境で医療を学ぶ。それは昔からの夢だった。別に故郷が嫌いになった訳じゃない。だけど、どうせ学ぶならちゃんとしたところで勉強をしたい。 10歳のころ、わたしは病気で寝込んでいた。病名はわからない。高熱が二週間も続き動くこともままならなかった。病名がわからない以上手当のしようがない。異国なら高度な魔術師を呼べたのかもしれない。でも田舎の町にきてくれるなんて都合のいいことはなく、両親は途方に暮れていたらしい。 そんなときに救いの手をさしのべてくれたのは通りがかりの旅行者。その人は瀕死のわたしをたった数日で元気にしてくれた。その人はもしかしなくても通りすがりの外国人――医者だった。 わたしといえば、虚弱体質を克服すべく体調が完全にもどってからはご近所の道場で対術を学ぶようになった。おかげでここ数年病気らしい病気も、怪我らしい怪我も一度もしたことがない。 医療を学び見聞を広める。この行いのどこかいけないのか説明してほしい。でも結局のところ、この一件があったからなかなかわたしを手放せないんだろう。 お父さんだって異国からはるばるここまでやってきたんじゃないと反論すると、俺は男だからいいんだと語気を強められた。そんなのむちゃくちゃだし男女差別だ。 「お父さんは心配なのよ」 荷物を詰めているとお母さんが声をかけた。 「イオリが元気になったのはわかってるけど、手放したくないのよ」 そんなこと言われても。 「お父さん泣いてたわよ。『イオリが嫁にいっちゃう。もう帰ってこなくなる』って」 「勉強にいくだけだから」 お嫁にいくなんて一言もいってないし、そもそも相手がいない。
過去日記
2011年01月04日(火) 「描写力がつくかもしれない30のお題」その2 2010年01月04日(月) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」その2 2009年01月04日(日) すっかりお正月も 2008年01月04日(金) 【EG番外編】セイル編 その2 2007年01月04日(木) 人気投票最終結果(仮) その1 2004年01月04日(日) SHFH9−3
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