防衛本能だろうか。
自身の与り知らぬ状況を、 回避しようと。
情報収集に、 集中して居たからだろうか。
漏れ聞こえる言葉。
決して、 其の一言一句を逃そうと、 意気込んで居る訳では無いのに。
聴覚が、 研ぎ澄まされ。
職場で呼ばれる名字は、 未だ、 旧姓の儘の事。
親の圧力を跳ね退け、 俺が一度訪れた其の場所に、 住めて居る事。
其の家の在処を、 周囲に隠す必要が無い事。
俺の直ぐ傍らで、 全て話せる事。
次々に、 勝手に耳へ飛び込む音声で。
次々に、 心の底では望んで居た情報が、 容易く手に入った。
包み隠さず、 自身の詳細を話す彼女の姿に。
一時期の、 惑いも、 澱みも、 怯えも、 見当たらなかったから。
「少しは役に立ったのか・・・な。」 「良かった。」
ふと、 独り言を洩らし掛けて。
彼女の、 視線の先に気付き。
其の言葉を飲み込んだ。
「恋愛はしばらく良いや。」 「先ず、きちんとしないといけないよね。」
其の朝、 絞り出す様に言い、 俺を退けた筈の彼女は。
其の晩も、 頻りに電話を掛けて来た彼に、 結局、 縋ったのだろうか。
其の日、 俺を利用した様に。
立ち上がる切っ掛けなんて、 案外、 転がって居るのに。
---------- References Aug.10 2004, 「其の奥と脇が良いのでしょうか」 Jul.27 2004, 「他に伝えたい事が在りましたか」 |