自身に刻み付けた筈の、 記憶は。
徐々に消去され、 或いは封印され、 色褪せて行くけれど。
形として、 既に出力された記録は。
大抵は、 色褪せる事無く生き続ける。
其れ故に。
色褪せる筈は無い、 記録を残して。
忘れがちな想いを、 丁寧に、 なぞり続けるのかも知れないけれど。
逆に其れは。
忘却と言う機能を奪い盗る、 危険な薬剤なのだろうか。
映像が詰まった磁気の帯を、 整理する為に。
中身を映し、 確認して居ただけなのに。
其の記録は、 封印した筈の記憶を簡単に呼び出して。
其の強化迄、 丁寧に施して行った。
愛を語らう為の部屋。
バスローブに包まる二人。
背後に流れる午後の地方番組。
デジカメの小窓に、 不可抗力で映されて終った、 旦那の姿。
半べそで謝り続ける、 貴女の姿。
飽く事無く、 唇を重ね逢わせる二人。
電源の切り忘れに気付き、 焦る貴女。
録画した画を観ようと、 面白がる俺。
此の画を俺に贈る為、 貴女が封筒へ必死に振り注いだ、 貴女の香水の匂い迄。
既に跡形も無く揮発して、 消えた筈の香迄。
鮮明に紡ぎ出されて蘇る。
早く、 捨てれば良いのに。
---------- References Mar.14 2002, 「挑んでも良いですか」 |