にゃんことごはん
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 (猫ともごはんとも無関係な少年漫画についての話 その2)

ざっと『ハイキュー!!』の説明をすると、天賦の運動能力を持ちながらも体格に恵まれない、攻撃を担うポジションの選手と、天賦の才を持ちながらもコミュニケーション能力に問題ありの、攻撃を組み立てるポジションの選手をW主人公とした、高校バレーポール漫画です。
彼らの所属する高校はかつて『小さな巨人』と呼ばれる伝説の選手を擁した強豪でしたが、監督が病気で引退してからは衰退しています。主人公二人が参加することでチームとして力を増していくという設定で連載が開始。
目下、全国大会に向けて地区予選勝ち抜きをかけて奮闘中です。

基本的に少年漫画は、主人公(とそのチーム)に感情移入させるように構成されていると、個人的に感じています。まあ、当然のことです。Jリーグの各ファンも国際試合なら日本チームを応援する、みたいなものでしょう。
もちろん、敵が魅力的でないと、対戦する主人公側がしょぼくなりますので、作品中では、いかに敵を魅力的に描くかについては、それぞれの作品でも最大限考慮されています。いわゆるライバルの存在です。
スポーツ漫画では、最初はチーム内の上級生だったり、直近の対戦相手だったりしながら、どんどん相手のレベルがアップしていく仕組みです。

ところが、『ハイキュー!!』では主人公二人がライバル関係にありながら、諸般の事情で同じチームで協力しあうチームメイトという存在になったところから、話が始まっています。ライバルでありながら相棒であり、自分のレベルアップと相手のレベルアップは切っても切れない関係、みたいな感じです。
だからなのでしょう。キャラクター個人のライバル関係とは別に、チームとしての因縁の相手チームというのを登場させています。が、これが、地区が異なるため全国大会に出場しないと対戦できない相手、と、最初から設定されています。
なので、主人公たちは何が何でも全国大会に進出したい、という下地があります。

ここからが主題です。よく『ハイキュー!!』の感想を見ていると、ライバル校に勝ってほしいと思うとか、主人公側が勝ったけどいまいち、とか、そういう感想を見かけることに気づきました。といって、主人公側がまけたらうれしいというわけでも、なさそうなのですが。
もちろん連載が長期化すると、ライバルチームのキャラクターファンというのもついてきますので、そういう意味で主人公側ではなくライバルチームに入れ込むというのは、当然あります。でも、『ハイキュー!!』の場合、それとは別に(ざっくりとした印象なのですが)、どうも「主人公側にいまいちのりきれない」→「つい相手側についてしまう」という心理が働いている場合があるのではないか、という印象を受けるのです。
これはジャンプのスポーツ漫画としては、王道外しです。

比較として、とんでもテニスといわれながら根強い人気の『テニスの王子様』をあげると、どんなに破天荒な試合内容でも、敵味方は明確です。つまり、主人公側から見た対戦相手がわかりやすくヒールなのです。強豪=ヒールではなく、わかりやすく腹黒いキャラがいるとか、チーム自体の戦略がヒールっぽいとか、選手はいいけど監督がヒールとか、後に内部事情がわかると決してヒールというキャラではないことが判明するとしても、初期登場時にはヒールとして描かれる、という感じでしょうか。
なので、とにかく読者は相手チームに腹を立てつつ、どきどきしながら対戦を待つ、わけです。

が、『ハイキュー!!』では、対戦相手が極めて丁寧にリアルに描かれるケースがほとんどです。連載初期の名シーンともいわれた、大会初回の試合で敗退するチームを主軸に描いた回(敗退した各チームの背を描いたコマに「ぼくたちも、やっていたよ、バレーボール」というセリフを被せたシーン)に顕著なように、負けたチームが主人公?と思えることが、多々、あります。
負けたチームにとって主人公チームは「敵」です。
バトル漫画の王道として、勝ち続けなければならない主人公が、負けたチームにとっては「敵」として描かれてしまう、という矛盾が生じてしまうわけです。

主人公チームに感情移入してどきどきしつつも最終的にはスッキリしたい、という読者の求めるカタルシスが肩透かしを食らう、それが、この作品に乗り切れない層を生んでいるのではないか。

作者は、意図しているのかいないのか、ご本人もバレーボール経験者だったそうなので、敗退したチームにも想いがあるという姿勢を作品中では、貫いているように思います。それが、結果的に王道外しになっているのか、あるいは、意図的にそうしているのか、今のところ判断がつきません。

ただ以前、練習試合のシーンで「カラスだから悪役っぽい」「(主人公チームには)似合ってるじゃないか」というような会話があったので、もしかしたら、主人公側を敢えてヒールっぽく見せている意図もあるのかも、と思ったりします。

ともあれ、今回因縁の対決回なので、ここの描き方で、ヒール役っぽい主人公チームが勝ちあがっていくのか、一見ヒールに見えるけれどそうではない相手が勝ち上がっていくのか、個人的にとても興味深い部分です。
もともと圧倒的な力を持っている相手をさらに成長させてきているので、対抗する主人公チームがどう対処するのか、とても楽しみです。
キャラ萌えで相手を応援している層以外に、主人公側に乗り切れない層をいかに取り込んでいくかについても、とても興味深く楽しみです。



2014年11月02日(日)
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