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うたかた
sakurako

2010年01月26日(火)
戯言ラヴァーズ

「なんやて、卵かけごはん食うたことないんかいな」
「そんな非国民みたいに責めなくてもいいじゃねーか」
「うまいでー、今すぐ作ったるし、食うてみたらええ……ほれ、」
「もぐもぐ」
「どや? うまいやろ?」
「卵とゴハンの味」
「さよか……」
「ああ」



2010年01月20日(水)
恋とはどういうものかしら

戯れのフレンチキス程度ならば。

少しばかり行き過ぎた友情の発露とか、はたまた酔っ払った挙句に隣のヤローがなんだかやけに可愛く見えちまったとか、シチュエーションは様々だろうし、100%全員が、とまではさすがに言えないし言わないけれど、ぶっちゃけ、ついやっちまった経験って結構あるだろう? たとえ相手が異性だろうが同性だろうが、だ。
オレだって最初はその程度のことだと思ってた。
季節は梅雨もそろそろ終わろうという初夏だ。
前期試験なんか余裕でクリア予想のオレたちはその分暇を持て余しており、けれどどこかへ外出するにはその日は蒸し暑すぎたし、第一、ダルすぎた。だから仕方なくCDを聴いたりマンガを読んだり、つまりは同じ部屋にいながらも、各自思い思いに自堕落な日曜日を過ごしていたわけだ。
「若いってことはダルいってことだなあ、新一」
工藤家の広いリビングに半ば寝そべっただらしない体制のまま、声をかけてみる。
新一はばーか、と素っ気ない返事をくれた後、オレの着ているツナギを一瞥し、
「暑くねえのそれ、バカみてえ」
と心底嫌そうな顔をしてみせた。
まあ、オレだって本気で同意が欲しかったわけじゃない。ただあんまり無言でいると会話するのを忘れちまいそうだったから、何でもいいから何か言ってみたくなっただけだ。
「別に、暑かねえよ」
「ふぅん」
特に興味もなさそうに、白馬から借りてきたとか言うホームズのDVDを見つめている新一の唇を掠めたのは、繰り返して言うが、だからほんの出来心程度の動機だった。今更、誰に言い訳するんでもねえけどさ。
どんな味がするんだろうとか、柔らかいんじゃねえか、いや案外冷たくてつるりとしているのかも、とかそんな感じで、ほんのちょっと、ちゅっ、と。だ。
ちゅっ、と。
一瞬、触れただけだった。掠った、と言い換えてもいい。
こんなの、欧米だったら挨拶程度にもなりゃしない。
両親がアメリカナイズされているせいか、何だその程度のキス、ってふうに鼻で笑って、新一は全く何もなかったみたいにDVDを見続けた。予想された反応だった。けれどそのうなじのあたりに、真夏日だったからな、汗が玉になって浮いてるのを見たとき、オレの座右の銘、すなわちポーカーフェイスだ、そんなのそっちのけで理性がぶっ飛んだ。
だってそうじゃねえか?
出来心で果たしちまったから心構えができていなかったけれど、割と、いや結構、いやいや正直に言おう、ものっすげえ、いいな、なんてかねがね思っていたヤツと一瞬でも唇が触れたりしたら、そのファーストコンタクトが信じられないくらいキモチイイってのは、もうこれは健全なる日本人10代男子としてはしょうがない話だろ、違うか? 
オレも例外に漏れず、ものすごく、そりゃあもう虚数倍的に――つまり、一瞬にして周囲が見えなくなるくらいってほどの意味だ――アドレナリンが出まくりだったね。全神経が一斉に刺激されたあまり、リアルに髪の毛が逆立つかと思ったほどだ。
もちろんオレにだって理性くらいある。あるさそりゃ。
だから、その時はまだ、興奮のあまり、っていうよりも、平気な顔をしてる新一に対して、これならどうだ、って挑むような気分があったんじゃないかと思う。モニターに対してすこし斜めに向いた新一の顎を両方の手のひらで挟んで、無理やりこっちを向ける。ぶちゅう、って音がしそうなくらいに強く唇を押し付けたら、息苦しさに喘いだ新一の舌先が偶然オレの唇を捉えて、たまらずそれを吸い上げた。どんどん、経験したことのないヘンなキモチが募ってくる。鼻にかかった、甘えたような声を聞いて、実際それは単純に呼吸が苦しかったのだと今だからわかるのだけど、そんなのもう頭に血がのぼってるオレには喘ぎ声にしか聞こえなくて、思わず乗り上げるみたいに押さえ込む。はしたなくも下半身を新一の同じ場所に押し付けた。
やっべえ、オレ、めちゃめちゃカタくなってんじゃん。
新一にしては珍しい、まあ自宅だったから部屋着みたいなモンだろう、とにかく珍しいんだ、その短パンをトランクスごとずりおろしたら、新一のもカタくなりはじめてた。「ヤローの裸見ちまったぜ」なんて我に返らなかったのは相手が新一だったせいか興奮しすぎてたのか。とにかくそれでなんだか嬉しくなっちまって、恥ずかしいもクソもこんな状況でないと思うけど、自分で抜くのはさすがにどうよと思ってたから、じゃあ共犯にしちまえなんて思い付くのはオレの悪い癖で、新一の下半身をあれこれいじくり回しているうちに、驚いたことが起きた。
最初は、何が起きたかわからなかった。夢中だったからな。
新一の背筋が反るのを、キレイだな、なんてうっとり眺めながら、見た目より更に細い腰を抱えるようにして、後ろに回した指をつかった。やがて筋肉を緊張させ、爪先までぴん、ときれいな弧を描いて、それが前兆だなんて気付かなかったから驚いたわけだけど、考えてみたらオレだってイク時は同じだから分からないほうがどうかしてた。末期にいまだかつて耳にしたことのないような高音が混じった吐息を吐いたかと思うと、断続的な痙攣を繰り返しながら、新一は大量の精液をオレの腹あたりに吐き出しはじめた。
オレはすっかり逆上しちまった。
あんな姿と声を見せつけられたら、しかも工藤新一の、だぜ? 誰だってそうじゃないか。
けれどネクストステップに移行するかしないかはまた、全く別の話だ。
あの時は暑さで頭がどうかしてたなんて言い訳も虚しいか。
笑うなよ、ツナギのファスナーだけ下ろそうとしたら全然動かなくて、焦って見下ろしたらこれがもう、天を衝くっていうか。邪魔してたんだな。笑うとこじゃねえって。
挿入しっぱなしだった中指を抜くやいなや、一息に押し込んだ。ナカはぎちぎちとオレを締め付けて、いや多分狭かっただけなんだけど、よくあるじゃねえか「いやいやって言ったって身体は正直だぜ奥さん、こんなに締め付けてやがる」みてえの、そんな気分で、工藤が痛いだのやめろだのじたばた藻掻いてるのなんか全然気にならなかった。だいたいそんな風に抵抗されたら、逆にちょっと嗜虐的な気分にもなるじゃねえか正直、だって今オレの下で喘いで、いや実際はぜんぜん喘いでなんかいなかったんだけど、なんでってオレがずっと唇に吸いついてたからな、声なんか実際は出せなかっただろう、けどとにかくオレの脳内イメージ的に考えてくれ、喘いでんのは、あの工藤新一だぜ?押し付けた腹筋の下で工藤のモノがまた少しずつカタくなってるのがわかった時、なんだかいても立ってもいられないような焦燥感がオレを襲った。身も蓋もないが要するに興奮したってことだ。ここまで来るともう、我慢がきくようなもんじゃない。早漏だって言われるんじゃねえか、なんてちらっとは思ったけどな。
繋がったところから漏れ出るくらい、ものすごい勢いで工藤のナカを直撃してもオレはまだまだ全然足りなくて、そのまま出し入れを続けていた。出したモノで滑りが良くなっているのか、ぎしぎし軋むようだった一度目よりもずっといい。深いところを突いてやると、ひくひくと壁全体が蠕動する。ぬるついたシリコンにやんわりと握り締められるみたいだった。
うわ、きもちイイきもちイイキモチイイキモチイイ。
脳味噌まで沸騰させる圧倒的な熱量の前に、余裕なんてモノは銀河系の遥か彼方、宇宙の果てまでひとっ飛び、もうゴールまでひたすら一直線だ。腰のあたりに飽かず溜まり続けた電気がとうとう爆ぜて、猛スピードで脊髄を駆け上がり、脳天を貫いた。
気絶しちまいそうな恍惚。
そして、ようやく少し血の気が引いたのだと思う。
工藤が口にしていたのが嬌声なんかじゃなく「やめろ」という一語であったと、今更閃いたが時既に遅かったのは言うまでもない。
「てめ、な……、んで、ンな……コト」
普段なら絶対に蹴り上げられているところだが、筋肉が弛緩してしまっているのか、うまく身体が動かないようだった。息も絶え絶えに、眉根を寄せて、じっとこっちを見詰める新一の瞳が色っぽいよな、なんて思っていたのだから、性欲というやつはマジ罪深いと思う。
遅ればせながらとんでもないことをしたと悟ったのはその後だ。
「出てけ」
それだけ言われて、汚れた下着ごとそそくさとズボンを上げた時の情けなさったらない。帰り道の街灯は薄暗く、あんなに暑かったのに、夜風は寒気がするほど冷たく感じた。

そんなコトがあってすぐ、わかっちゃいたけど、さっそく学食で顔を合わせたところで、オレはどうしたらいいんだ?
冷たい視線をくれる、どころか、何事もなかったかのように無視する態度が痛い。自業自得、という単語が岩になって頭を乱打するようだぜクールビューティー。謝る機会すら与えてくれないってわけだなオールライト。困惑のあまり、頭の中には無駄にカタカナが頻発する。そうさ全部、徹頭徹尾、最初から最後までオレが悪い。悪かった。それでもきつねうどんなんかすすっている工藤の隣に自分のトレーを置いちまうのは、好きだってことだよなあ、だってイイもんなあ、きつねうどんをすする新一も。
だったらなおさらなんであんなことしちまったんだ……って好きだからだよなあ。堂々巡りを繰り返しているうちに、新一はきつねうどんを食べ終えて席を立ってしまった。
ああオレ、永遠に避けられ続けるのか。
良くて変態として一生冷たい視線を浴び続けるのかオレは。
けれど黒羽快斗、自業自得だ。こんなになってようやく気づく恋心って一体なんだよ。グッバイ青春。
その時だ。
脳内会議が忙しくて豚汁定食が冷めるのもお構いなしだったオレの耳元に、ひとこと信じられない単語が吹き込まれた。曰く。

「もっと勉強しやがれ、バーロー。オレが痛くないように」

立ち去る工藤の後ろ姿には後光がさして、いやもう天使のラッパが聴こえるかと思ったね。いや聴こえたね。
大学生協には売ってねえよなあ、なんてバカみたいなことを考えながら、いそいそとローション買いに走っちまうオレ、相当どうかしてると思うけど。

恋ってこういうモンじゃねえ? そうだろ?




2010年01月18日(月)
カウントダウン前夜

「……で、服部も白馬も東都に居るんだし、せっかくだから集まろうぜって話になってんだけど」
「なんか気乗りしてない、新ちゃん?」
「いやカウントダウン自体は構わねえんだけどよ、服部が」
「妬いてるとか? 『二人っきりで姫はじめしよや工藤〜』とか」
「バカだろオマエ。つか言い出したのは服部だし」
「じゃあ何」
「無茶言うんだよ」
「あー初日の出暴走行為とか」
「本気でバカだな」
「服部が?」
「いや黒羽、オマエがだ」
「何だよ焦れったい……うわ白馬ッ」
「どうしました工藤くん、Is there any problem?」
「勝手に人んちの電話取るなよ、なぁ新ちゃん、ハッキリ言いなよ、何が悩み? 相談に乗っちゃうよ」
「あのな……だから服部がさ」
「服部が?」「服部くんが?」
「正月だからオレに振袖着ろって」
「「……」」
「な、バカだろあいつ? 嫌がっても無理やり着せようとすんだぜ!」
「それの」「どこが」
「!?」
「ダメなの、可愛いじゃん」「可愛いですよね、工藤くんの振袖姿」
「見たいよなあ」「ええ、ぜひ見たいですね」



2010年01月17日(日)
「あれがデネブ、アルタイル、ベガ。」

いいんじゃねえの、と控えめながらも賛同してみたのは、特に天体観測を希望していたというよりは、単純にヒマだったからだと記憶している。多分他の二人も同じだったろう。「服部もたまにはいいこと言うじゃん」黒羽が缶ビールを飲み干して言うと、白馬も「たまにはね」と静かに笑って頷いた。明かりひとつない峠道の果て、都会では滅多に見ることのできないミルキーウェイを首が痛くなるくらい見上げてハイになったオレたちは、馬鹿みたいに笑ったり飛び跳ねたりしてはしゃぎ疲れ、誰ひとりとして翌日の午後まで目を覚まさずに眠り続けた。
興味がない振りを続けてとうとう言わなかった言葉は、実際のところは言わなかった、ではなく、言えなかったのだと今ならわかる。あの夏の日、もともと地黒の肌をさらに真っ黒に日焼けさせて、夜空の下では夜と区別がつかないくらいだったオマエの顔、笑った顔や、怒った顔や、眠そうな顔や、そんな全部をはっきりと思い出す。そして記憶の中のオマエはいつも天を指して笑うのだ。あれが夏の大三角形、と。とてもとても自慢げに、笑うのだ。


にゃったーが描いてくれたイラストを謹んで飾らせていただきます。
どうもありがとう!