かたほうだけのパンプス
敦香



 誰にも知られないはず

昨日につづきショート、ショートストーリー。

「誰にも知られないはず」

あのことを知っている人はあまりいない。
クラスのなかのグループで、あの日あの場に居たメンバーだけ。
4年前にひとりがガンで死んだから、知っているメンバーがひとり消えた。
もうひとりは、アメ リカに行った。
もう一人とは音信不通だが、フェィスブックで見かけたので心配 だ。
でも知らないふりを押し通そう。
いつだったか酔ってあのことを言いそうになったことがあった。
言ってしまったのかもしれな い。
でも酔ったときのことだからみんな本気にとってないだろう。
そんなことがあってから まったく酔えなくなった。

ゲームのアプリ知ってる?
そのゲームは、あのときのことを再現しているみたいで怖 い。
アプリの作者は、まるで知っているかのようにあのことにゲームはよく似ている。
電車の隣に座った見知らぬ人がゲームをしていた。
私たちは誰にも言わない。誰にも言えない秘密を共有したはずだ。
カフェでも、スーパーマーケットでも、ゲームをしている人を見かけた。
どうしよう。
ピーン、ピーン。
ドッシャン!ゲームの音が聞こえる。
音の設定が小さくてもゲーム音は鮮明に聞こえてくる。
あのとき、あんなことをしなければよかった。
でもやってしまった。ヤル気はなかった。
成り行きだった。
誰も知らないはず。
誰にも知られないはずだった。
たった一度のあのことが何年も経ってみんなが離れ離れになってもあのときを思い出してしまって苦しい。

あの場所は卒業後、壁に埋め込まれていた。
私たちの学校は、夏休み、春休み毎に少しずつ空き教室や使われない部屋などを埋めていた。

どういうわけで埋めているのかわからない。
きれいに埋められた場所はだんだん増えていた。
あの日の夕暮れ、誰もいなくなった空き部屋に私たちは居た。
あのことが起こり、とりあえずみんな家に戻り朝早く学校に行き塀をよじ登って忍び込み私たちは壁を埋めた。

私はゲームのアプリをダウンロードして、すぐに押した。
「ゲームオーバー」のボタンを。


2018年11月24日(土)
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