かたほうだけのパンプス
敦香



 モテ彼

彼の謎は、深まるばかり。
彼は、どちらかというとアンパンマン系の顔で、いつもよれたYシャツを着ていた。

学歴はなくおまけに短足で、多額の借金をかかえているし成田離婚を経験していた。

私のOL時代、職場にいたモテ男の話だ。

一つ年下の友達とお茶したときに彼のことが好きなんだと知った。

部署が違うから顔を会わすことがほとんどなく、ずっと片思いのままだと言っていた。

絶望的だと私は直感した。

だいたい、こんなプロフィールの男に片思いしているコは、
男の何を見、何を求め、どうあればいいと思うのか。

彼に優しくでもされたのか?

聞けばほとんど口をきいたことはないという。

そのコの好きは、どこからでてくるものなのか?


私は、言えなかった。

私の部署の先輩が、
「あいつ、成田まで行って(当時「成田離婚」という言葉はまだなかった)女から逃げたんだってよ」とか

「あいついくら借金があるんだろう。二百万じゃきかないだろうなあ」とか

「部下をイジメてるらしいぞ」とかとか・・・。

極めつけは、私と同じ年で彼の部署で彼のすぐ下で働くKコとつきあいだしたこと。


Kコと私は、更衣室のロッカーが近く、同じ年だとわかってすぐに仲良よしになった。

一つ年下の友達は、もともとKコのことを心よく思ってなかった。


一つ年下のコは、地味だった。

何も言わず無難をきわめているだけで大いなる幸福がやってくると思っていたのだろうか。

可もなく不可もないコに大人たちは、幸せの太鼓判を押した。

いつも飲み歩き不可つづきの危なげな私やKコをあきれた目で見ていた。


それから私は結婚し、なんとKコは例の彼とゴールイン。

相変わらず、一つ年下のコは自宅から一時間以上かけ乗り換えを三度もする会社へ勤め続けていた。


若いお嬢さんのお手本のように言われ続けた。
私はいいコよ。と言った。
いつもニュースはないコだったから、あとのことは知らない。


Kコは、子宮外妊娠をしてたいへんなことになっていた。

私は母になっていた。

しばらくしてKコは家に招待してくれた。

旦那さんになった彼は、なんでもない人でいた。

でも彼はかつて女性の心をトリコにしていた人。
彼が気取らない人だからなのかも。
ウソがない人だからなのかも。


彼の評判はいまいちだったけれども、

話してみて、身近になってみても
何もわからなかった。


2014年09月06日(土)
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