無責任賛歌
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2007年01月05日(金) |
動機は藪の中に/映画『リトル・ミス・サンシャイン』/映画『こまねこ』/ドラマ『悪魔が来りて笛を吹く』 |
> 不仲の兄・妹、家でも無言のにらみ合い…短大生殺害 > http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070106ic01.htm
> 妹になじられた後…自室で木刀とひも準備、冷静な犯行 > http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070106i101.htm
東京都渋谷区の歯科医師長女短大生バラバラ殺人事件の続報である(まだどんな名称になるか分からないので、適当な呼び方をしているが、諒とせられたい)。
昨日の日記ではこの兄妹の間柄にかなり淫靡な関係もあったのではないかと想像していたが、その可能性は薄れたようだ。妹はかなり兄を嫌っていたように思える。 となればこの事件は、逆に兄の妹に対する満たされぬ欲情の爆発、という可能性の方が高くなってしまったわけで、身もフタもない言い方をしてしまえば、これはもう、童貞君の、しかも精神的に去勢されているがゆえの、身近な異性に対する「性的暴発」以外の何物でもない。 妹がアイドル志望でブログまで持っていたというのならなおさらだ。妹と没交渉であったことが、かえって妹への幻想を培ってしまったのだと言える。もしかしたらこの兄、妹の一部を文字通り食ってたりしてないか。
生物学的な本能として判断するなら、近親婚は決して異常なことでも何でもない。最も身近な異性に対して性的関心を抱くことは、ごく自然なことだからである。人間社会においてそれが回避されているのは、優生学的な問題(科学的には全く根拠のないことなのだが、なぜか未だに近親婚は奇形が生まれると盲信している人間が多数いる)や宗教的タブーがあるからというよりも、裏も表も知っている身内に対して、幻想を抱きようもないという「文化習慣的な要因」の方が大きいように思う。 世の中に「お兄ちゃん……」とモジモジしながら甘えてくるような萌え要素満載の妹なんて実在しないのだ。
しかしニュースはあくまでこの事件から情痴的要素を排除して報道しようと努めている。その結果、逆に矛盾だらけの表現が目立つことになる。「頭にきてやってしまった」犯行について「冷静な犯行」と強調しようとするあたりなどがそうだが、性的犯行は得てして冷静な行動となって現れるものだ。 送検中の兄の顔がようやくテレビで流れるようになったが、あの「イッちゃってる目」を見れば、事件の本質は誰の目にも瞭然であろう。マスコミだけがなぜかオタオタしているのである。
しかし、ネットでは「兄をバカにする妹は殺されて当然だ」みたいな発言も見受けられるようで、これには笑ってしまった。妹に幻想を持っている御仁は、結構身近におられるようなのである。
シネリーブル博多駅で、映画『リトル・ミス・サンシャイン』。
監督 ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス/プロデューサー デイヴィッド・T・フレンドリー、マーク・タートルトーブ、ピーター・サラフ/脚本 マイケル・アーント/音楽 マイケル・ダナ/撮影 ティム・サーステッド/美術 カリーナ・イワノフ/編集 パメラ・マーティン
出演 グレッグ・キニア/トニ・コレット/スティーヴ・カレル/ポール・ダノ/アビゲイル・ブレスリン/アラン・アーキン
<ストーリー> アリゾナ州に住むフーヴァー一家は、家族それぞれに問題を抱え崩壊寸前。 父親のリチャード(グレッグ・キニア)は独自の「9段階成功法」を振りかざして、“負け組”を否定している。そんな父親に反抗する長男ドウェーン(ポール・ダノ)はニーチェの超人思想に被れて沈黙を続けている。9歳の妹オリーヴ(アビゲイル・ブレスリン)は、自分の体型では入賞はとうてい無理なミスコン優勝を夢見ている。ヘロイン常習者の祖父(アラン・アーキン)は勝手に言いたい放題。さらにはそこへゲイで彼氏に振られて自殺未遂を起こした伯父フランク(スティーヴ・カレル)まで加わる始末。ママのシェリル(トニ・コレット)の孤軍奮闘も虚しく家族はバラバラ状態だ。 そんな時、オリーヴに念願の美少女コンテスト出場のチャンスが訪れる。そこで一家は旅費節約のため、オンボロ・ミニバスに家族全員で乗り込み、はるばる開催地のカリフォルニア目指して出発するのだが……。
製作費はたった800万ドルのインディペンデント映画。 マニアなキャスティングではあるけれども、一般的に客を呼べる有名スターは一人もいない。 ところが、そんな映画が、『スーパーマン・リターンズ』『パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト』などの超大作を蹴散らして5千万ドルを売り上げる大ヒット、諸外国の映画祭でも絶賛の嵐、となれば、日本の批評家もまたこぞってこういう映画を誉め上げるのである。 けれども、そこが「落とし穴」というもので、「地味な映画を賞賛するのが通」みたいなのは逆にスノッブなのね。映画を実際に見てみりゃ分かるけれども、駄作とまでは言わないけれども、「この程度で絶賛するか?」って程度の小品だよ、これ。
いわゆるウェルメイドなシチュエーションコメディであると同時にロード・ムービーでもあるんだけれども、ビリー・ワイルダーほどに粋なわけじゃない。ニール・サイモンほどにイカレているわけでもない。ごくごく小粒。 ワイルダーなら設定にムリがあっても、笑わせてくれるんだけれども、そういう芸達者は、アメリカでも払底しているのかもしれない。コメディアンをあえて外して、「ナチュラルな演技」がふれこみの普通の役者を起用した(アラン・アーキンやスティーヴ・カレルなどのセカンド・シティ出身者もいるが、彼らにも普通の演技をさせている)。 そこがあちらでは賞賛されているようだけれども、そもそも設定自体が「ありえない」のだから、ナチュラルじゃ逆効果なのではないか。だって、実際、見た印象は、「ムリのある話で、しかも爽快感がない」としか言いようがないのだ。
冒頭で「いかにフーヴァー一家がバラバラか」を紹介する描写をパンフの解説で誉めていたけれども、こんな「絵に描いたようにバラバラ」な家族を「自然な演技」で見せても、かえって不自然さが目立つ。 自分の立案した成功法を出版したがってるオヤジってのは実在するかもしれない。 ヘロイン中毒の爺さんも世の中にはたくさんいるだろう。 ニーチェに被れて無言の行を続けるイカレた若者も滅多にいるとは思えないがいないとも言えない。 ミスコン狂いの母娘なら、いくらでもいそうだ。 彼氏に振られたゲイで、しかもプルースト研究家というのは突飛だが、普通の家族の中に一人、そんなヘンなのが混じってるっていうのなら納得もする。 問題は、「こんなおかしなやつらが全て集まってる家族なんてありえない」ということだ。
ストーリーは彼ら家族が幾多のトラブルを乗り越えてカリフォルニアにたどり着くまでを描くが、このトラブル一つ一つの乗り越え方がまた、毎回「ウソくさい」のである。
ラストが取って付けたように家族そろって仲良しになりました、で終わるのも拍子抜けだ。 せめて日本の『逆噴射家族』のようにハチャメチャなことをしてくれるんだったら気が抜けるまでには至らなかったと思うんだけれども。
続けてシネリーブルで、『こま撮りえいが こまねこ』
原作・監督・キャラクターデザイン 合田経郎/アニメーター 峰岸裕和、大向とき子、野原三奈 音楽 Aikamachi+nagie/Vocal いいのまさし/エンディングテーマ:solita『123』
声の出演 瀧澤京香、若林航平、小林通孝
<ストーリー> 「こまちゃん」は、こま撮り(8ミリ撮影のアニメーション)が大好きなネコの女の子。 彼女を主人公に、五つの物語が綴られます。
1.「こまねこ はじめのいっぽ」 こまちゃんはこま撮りするネコなので、今日も一生懸命にこま撮りをしています。ストーリーを考えて、絵コンテを描き、お人形や背景も作って、さあ!8ミリカメラで撮影を開始するのですが・・・。ハエが飛んできてアクシデント発生!こまちゃんは無事、撮影できるのでしょうか?
2.「カメラのれんしゅう」 お気に入りの8ミリカメラで野原の撮影をするこまちゃん。撮影に夢中なこまちゃんに、幽霊がいたずらしようと、こっそり忍び寄ってきます。
3.「こまとラジボー」 壊れたラジオの修理にやってきた、ラジボーとラジパパ。ラジボーは機械いじりが大好きな男の子。こまちゃんに、素敵なお友達ができました。 4.「ラジボーのたたかい」 ラジボーは飛行機のラジコンで鳥とたたかいます。あの手この手を使うのですが、なかなかやっつけられません。あきらめて鳥と仲直りするラジボーですが・・・。
5.「ほんとうのともだち」
ある日、ピクニックに出かけたこまちゃんは、雪男と遭遇してしまいます。最初はびっくりしておうちに逃げかえりますが、失くしたお人形をおうちまで届けてくれた雪男にどうしてもあいたいと思うこまちゃん。 はたして、こまちゃんは雪男に会えるのでしょうか?そして雪男の正体とは?
監督の合田経郎氏は、NHKの人気キャラクター「どーもくん」の生みの親。 あの人形アニメーションの「あたたかさ」をご存知の方には、その素晴らしさについて今更、何の説明も必要としないだろう。 上映時間がわずか1時間、これであの愛らしいこまねことお別れかと思うと、それだけで胸が切なくなる。 合田氏のアニメーション技術の素晴らしさは、人形アニメにはありがちな「動きのぎこちなさ」、これが非常に小さいことだ。人形の骨格がしっかりしていることと、ぬいぐるみ人形の質のよさ、それももちろんあるだろうが、やはりその動きの「演技指導」が細密でブレが少ないことが一番の理由だろう。 その技術は、アードマンスタジオの『ウォレストグルミット』を越えている。はっきりと「世界第一級」と呼んでいいと思う。
当然のことながら、その技術を支えているのは、監督以下アニメーターたちの「真心」だ。 こまちゃんは可愛らしいだけのネコちゃんではない。こま撮りアニメを作ることにはとことん凝っている(キャラクターのももいろちゃんとはいいろくんはこまちゃんが心を込めて作ったおかげで、動けるようになってしまった。けれどもこまちゃんの気持ちを汲んで、あくまでこま撮りさせてあげるのである)。
つまりみなさん、こまちゃんは立派な「腐女子」なんですよ(笑)。 ラジボーはメカマニアだし、いぬ子ちゃんは……。はいそうです。アレです(笑)。
フツーの子供とはちょっと誓ったところのある子供たち、こまちゃんを動かしているアニメーターたちは、子供時代の自分たちに――そして今のフツーと違った趣味を持っている子供たちに向けて――。 「君は、ここにいていいんだよ」と声をかけてくれている。 これでジンと来ないオタクはいないだろう。
ああ、しまったなあ、去年のうちにこの映画を見られていたら、「キネ旬」の読者投票ベストテンに、この映画を入れるのだったのに。 昨年の私の日本映画ベスト5は、1.『鉄コン筋クリート』、2.『時を書ける少女』、3.『こまねこ』、4.『かもめ食堂』、5.『立喰師列伝』と変更します。 5本中、4本がアニメになってしまいましたが、あと『パプリカ』を見たら、それも入ってくるかも……。
昨年は邦画自体も活況を呈したけれども、アニメもまた、秀作を次から次へと送り出してきていたのである。
ドラマ『金曜プレステージ 悪魔が来りて笛を吹く』。
原作 横溝正史/脚本 佐藤嗣麻子/演出 星護/音楽 佐橋俊彦 出演 稲垣吾郎(金田一耕助)、国仲涼子(椿美禰子)、成宮寛貴(三島東太郎)、伊武雅刀(目賀重亮)、螢雪次朗(玉虫利彦)、銀粉蝶(河村駒子)、高橋真唯(河村小夜子)、小日向文世(横溝正史)、野波麻帆(菊江)、浜丘麻矢(お種)、浜田晃(玉虫公丸)、渡部豪太(玉虫一彦)、塩見三省(橘署長)、秋吉久美子(椿秋子)、榎木孝明(椿英輔) 稲垣吾郎の金田一耕助シリーズも『犬神家の一族』『八つ墓村』『女王蜂』に続いて第四弾。 金田一役者が代わるたびに、イメージがどうこう言われるのだが、稲垣吾郎はいささか若すぎるものの、金田一のこまっしゃくれた感じはよく出していると思う。あのマントひらりはちょっとやめてほしいが。 冒頭で米兵から「Batman!」と呼ばれるのは、原作の『蝙蝠と蛞蝓』を知っている者にはクスリとくるネタだ。
さて、ドラマの内容の方になるが、原作のトリックに重大なミスがあることは、横溝正史自身が告白している有名な話。多少は触れないことには説明が続けられないので、ちょっとだけ触れると、フルートに関するトリックである。 実はこれまでの『悪魔』の映画、ドラマ化においては、このトリックにミスがあるために、一度も映像化されたことがなかった。 このミスについては、原作者自身が改稿を考えていたのだが、残念ながら横溝正史には音楽に関する知識がないために(息子の亮一さんはフルート奏者なんだから、協力してやればよかったのに)放置されたままだった。 従って、『悪魔が来りて笛を吹く』というタイトル自体が一つのトリックになっているにもかかわらず、映像は常に「メイントリック不在」のまま、つまりは「不完全版」のまま、映像化され続けていたのである。
脚本の佐藤嗣麻子は、これまでのシリーズでも、原作のエッセンスを充分に引き出した脚本を書いてきた。正直、テレビドラマという時間の枠がなくて、映画という枠であったなら、これまでの横溝映像化の中で最高傑作と言ってよいほどの出来栄えになっただろうと思われるものばかりなのである。 今回もそれを期待してみたところ、まさに横溝ファンの意を得たかのように、このトリックミスが修正されていたのである。 何人か原作の登場人物が省略されていたり、密室トリックがなくなっていたり、原作の改変はかなりあるが、それでもこのメイントリックが初めて修正されたという点で、今回のドラマ化を高く評価しないわけにはいかないだろう。 省略された密室トリックも、正直、『本陣殺人事件』に比べればチャチとしか言いようがないものである。もしあと30分、尺があれば、この密室トリックも何とかグレードアップすることができたのではないかと思うと、やはりテレビという枠の狭さが残念に思えてならないのだ。
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藤原敬之(ふじわら・けいし)
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