無責任賛歌
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2006年01月20日(金) |
北九州くらいまでなら遠くない/舞台『イッセー尾形のとまらない生活2006in小倉』 |
本日は北九州芸術劇場で『イッセー尾形のとまらない生活2006in小倉』の公演日。前回の博多とはまたネタが違うということなので楽しみである。
定時に退社していては開演時間ギリギリになってしまうので、少し早引けして、小倉行きの快速に乗り込む。事故に遭わない限り、開場一時間前には会場に到着する予定だ。 既に博多駅から乗り込んでいるしげから「後ろから二両目にいるよ」とメールを貰っていたので、探してみると、ちょっと込み加減の車両の中ほどで、隣の席に弁当が入っていると思しいビニールの袋を置いて心配そうな顔をしているしげを見つけた。私がちゃんと乗り込んだかどうかドキドキしていたようである。 食事は駅弁で済ませようと事前に話していたので、ビニール袋を指して 「駅弁買ったの?」と聞いたら、「どこで売ってるか分からなかったから、普通の買ってきた」と差し出したのを見ると、確かにコンビニで売ってる幕の内弁当である。おかずの焼き魚なんか、切り身でもかなり塩っ辛いことが分かりきっているので、これを食べるだけでカロリーオーバーしそうである。 仕方なく、卵焼きとか、いくつかおかずをしげにあげて、おかずを少なめにして食べる。駅弁が見つからなかったのもおかしな話で、博多駅のコンコースには駅弁屋がもうあちこちにあるのだ。いったいどこに目を付けていたものか。
公演中に居眠りしては申し訳ないので、電車の中でひと寝入り、一時間ほどで西小倉に着く。芸術劇場のあるリバーウォークまでは徒歩五分ほど。予定通りの到着だったので、まだ時間がある。この時間を利用して、同じくリバーウォーク内にある北九州美術館別館を覗こうと思っていたのだが、生憎、明日からの「岡元太郎展」の準備のため、休館だった。仕方なく、同じ階のギャラリーで、「うずめ劇場」十周年展や「山海塾」ポスター展を見て時間を潰す。「うずめ」展は過去のパンフレットも置いてあって、下村嬢が出演していた『黄金の壷』のパンフも置いてあった。セリフが殆どない役だったが、それだけにボロが出なくて(失礼)、演出のピーター・ゲスナー氏、役者の使い方はうまいなと思った記憶がある。ホントに「うずめ」は脚本と演出はいつもいいんだけど、役者がねえ。
開場時間になったので、芸術劇場の中に入ると、『フツーの人々』ワークショップでご一緒した女性の方お二人から声をかけられる。私の視力はもうかなり落ちていて、こちらからは人の顔の判別がつかないので、こんなふうに声をかけていただけると嬉しい。Oさんとは先日の博多公演の時にもお会いしているので、「しょっちゅう会いますよね」と笑い会う。「もうこの面子だけで食事会でもしましょうか」なんて話もするが、確かに時間の余裕があって体調がよければ食事などもご一緒したいところなのだが、如何せん、退院して間がないのに、今、馬鹿食いするわけにはいかないのだ。病気をするととどうしても付き合いの範囲が狭くなってしまうので、せっかくのチャンスもフイにしてしまい、不義理を重ねることになる。そこんところをしげがカバーしてくれると助かるのだが、こいつはいつまで経っても役立たずなままだ。 今日も、久しぶりにお会いできたのに、しげはやっぱり愛想がなくて、ろくな会話もしようとしない。「人にはきちんと挨拶をして会話もする」という約束もしていたのだが、また反故にされた。いい加減でしげのウソは聞きたくもない。十年以上経っても少しも自分のわがままな性格を改めようとしないのだから、しげと一緒に行動するのは、最近、本当に億劫だ。 チケット受付で森田オフィススタッフのポチオさんと挨拶。「今日は森田は来てないんですよ」とのこと。森田雄三さんにお会いできなかったのは残念だけれど、風邪を召されているそうだから仕方がない。本当にお体は大事にされてほしいものである。
公演は全部で九つのスケッチ。これがすべてキャラクターが被っていないのだから、素晴らしい。
1.「庭にて」 「ガーデニング、ガーデニング、ヤッホー、ヤッホー」と歌っている太った息子。いつまでも出かけようとしない母親と、ちょっとボケてるんじゃないかという父親とのやり取り。電気屋がやってきて、衛星放送のアンテナを付けようとするが、隠していた「下半分だけの甲冑」を覗き見られてしまい慌てる。父親が賭けで負けて、上半分だけ取られてしまっていたのだ。 賭けに買った方もどうして上半分だけ取って行ったか考えると可笑しい。イッセーさんが太って見せるためにクッションの入ったセーターを着ているのだが、着替えた途端に急に痩せるので、それでまた会場に笑いが起きる。
2.「美容室」 銀髪のお婆ちゃんが美容室に飛び込みで入ってくる。店員に名前を聞いて「神宮司さん、あなたいいわね」「林さんって言うの? 林さんって人、私三人も知ってるわ。私の周りを林さんで固めてどうする気?」などとからかったり、「爪くらい自分で切るわよ!」と怒ったりストールを自慢したり、傍若無人。最後は椅子に座ったまま居眠り。 客待の椅子を勧められるのをマイムで演じるが、当然椅子は存在しないので座れない。どうするのかと思っていたら、「今は座りたくない気分なの」と笑って言ったのに受けた。寝ているだけの演技でも、引きこまれてしまうのはなぜなんだろう。
3.「コンビニ店員」 マコチャンという店員が、同僚とお喋り。自分の姉が結婚相手から探偵に調査されていると知って、向かいのampmにいる不審な男が探偵なのではないかと疑う。 イッセーさんが若い女の子の格好をしているだけでちょっと怖い。最前列の人には迫力だろうなあ(笑)。喋り言葉がイマドキなので、「超」とか「マジ」とか言っているのだが、最近の渋谷のコギャル(死語)は「マジ」は使わないで「ガチ」を使うと『言語』の二月号に書いてあった。マジ?
4.「ピザ屋」 ヤンキーなピザ屋が、ある会社に注文のピザを届けに来て、「山田さんいらっしゃいませんかぁ!」と怒鳴るのだが、肝心の山田は席を外している。ピザを本人に渡さない限り帰れないとピザ屋がごねるので、回りにたくさんの社員が集まってきて、ひとしきり応酬するが、やがて社員は「馬鹿は相手にするな」と離れていく。かえって興奮し始めるピザ屋。 ガタイのある社員に「ビザを置いていけ」と迫られて、ピザ屋が「これはピザじゃないッスよ、蛍光灯ッスよ」というのが私の笑いのツボにはまって大爆笑。蛍光灯も配達してくれる電気屋があると便利だよなあと思ったりする。
5.「欲張り」 交通整理の爺さん、かなり要領が悪く、旗をうまく振れない。離れたところにいる同僚の指示もよく分からなくて、しょっちゅう対向車を御見合いさせてしまう。「ああ、救急車と霊柩車がごっつんこ」。最後は嫌気がさしたのか、持っていた旗を投げ捨てて、「自分リストラ!」。 一番短いスケッチだけれども、キャラクターが爺さんでボケているのにテンポがよく、笑いの連続。イッセーさんには爺さんがよく似合うと言ったら失礼か。でも、九本のスケッチの中でこれが一番私の好みだった。
6.「ヒトミちゃん掃除婦」 ヒトミちゃんは掃除婦だけれども、仕事を始めた途端に「おトキさん」という幕末の霊に取り憑かれて、足が動かなくなったと言ってサボる。けれど同僚たちが一休みしてカステラを食べ始めたら、「おトキさんがカステラに興味があるんですって」と言って仲間のところににじり寄っていく。 イッセーさんの足芸が堪能できる一本。上半身と下半身が別のモノに操られているという演技が絶品。これはまさしく世界に通用する芸である。でも私は「おトキさん」の「明治維新の直前の江戸時代最後の日に死んじゃったから、未練が残っているのね」というディテールの細かさが往年の村上源治郎先生を想起させて面白かった。
7.「ボクシング」 ボクシング場のガードマン室に、先日のタイトル戦でリングに乱入した男が訪ねてくる。男はそこのガードマンに取り押さえられたのだが、ちょっとネジが緩んでいるその男、そのときのガードマンに憧れて、彼と一緒に先日のタイトル戦のテレビ中継をガードマンと一緒に見ようと思ってやってきたのだった。けれども、そのトラブル部分は放送ではカットされていた。 男がガードマンをやたらおだてるの見てるとねえ、こんなやついるよなあ、苛められたやつが、苛めたやつに逆に卑屈になって媚びるやつ、そういうやつを現実に何人も知っているので、何だかちょっと気分が悪い。スケッチそのものは可笑しいのだけれども。
8.「大家族(ハローワーク篇)」 シリーズでこれも長く続いてます。いや、この子沢山のお父さんが出てくると、思わず「待ってました!」と拍手をしたくなるね。 お父さんは現場監督からハローワークに行かされる。要するに転職を勧められたのだが、お父さんは「ハローワークに就職するのだ」と勘違い。事情が分かっても、「やりたい仕事」を「自分のなりたい夢」と更に勘違いして「船乗りになって世界の海を渡りたい」などと言い出す。お父さんを心配した子供たちがやって来ると、お父さんは「こいつらにも仕事を」と勝手に将来の職業を決め始める。 説明の必要のない「お父さん」の大暴走シリーズ。係の人の困った顔が見えるようだ(笑)。
9.「フレデリック」 フレデリックという名前の死んだ犬を埋葬するウクレレ弾きの爺さん。犬との思い出を語りながら、歌を何曲も歌う。そのたびに「フレデリック! 生き返ったか」と声をかけるが、すべて爺さんの一人芝居。 フレデリックは仙台まで飼い主を追いかけて行った忠犬らしい。愛情があるようなないような、つれないような態度を爺さんは取ってるんだけれど、本当はやっぱりフレデリックのことが好きなんだろう。「奇跡は2度は起こらんよ」と確認するように何度も繰り返すのが可笑しくも物悲しい。 だから最後に爺さんが「フレデリック!」と叫んだあと、あの犬は生き返ったのだと信じたいのである。
芝居が終わったあと、イッセーさんのサイン会に並ぶ。 ワークショップの時にはこちらは緊張しまくりでサインを頂く心の余裕もなかったので、これが実は初めてである。ご著書、DVD、トートバックにサイン、妻とのツーショットも撮らせて頂いた。あとで妻から「あんたは一緒に撮ってもらわなくてよかったの?」と言われたが、それは完全に失念していた。やっぱりまだ緊張しているのである。 ほんの少しだけイッセーさんとお喋りもできたのだが、映画『太陽』、やはり公開の目途が立たないそうである。こういう状況がある限りは、私はやはり世間の右寄りの言質に組する気にはなれない。中国も韓国もいい加減で日本に難癖付けるのはやめろ。かえって日本国内のナショナリストどもを増やすことになるだけだ。 帰りにもう一度、ワークショップのみなさんや森田さんの奥様とお喋り。というか奥様とちゃんと会話できたのはこれが初めてだ。森田さんのお子さんたちが、しげの「ファンなのよ」と仰るので、それはやっぱり太ってるから面白かったのだろうかと笑う。「あの時は一番太ってましたから」といつもなら黙りこくってモジモジするだけのしげも、珍しく応答する。奥様が気さくに話されるので、しげも話しやすかったのだろう。 「これでもこいつはあの時から15キロ痩せたんですよ」と私が言うと、奥様は「ダメよ、痩せちゃ。世の中が痩せた美男美女ばかりになったら面白くないでしょ?」と仰る。ありがたい言葉である。 名残惜しかったが、電車の時間があるので辞去。次のワークショップは10月だそうだ。その時はぜひ参加させてほしいとお願いして後ろ髪を引かれながら引き上げる。
2005年01月20日(木) 類友な話/ドラマ『富豪刑事』第二回ほか 2003年01月20日(月) 貴乃花引退/『探偵学園Q』8巻(天樹征丸・さとうふみや)/『魔法遣いに大切なこと』1巻(山田典枝・よしづきくみち)ほか 2002年01月20日(日) それでもアニメだけは見る/DVD『名探偵ポワロ エンドハウスの怪事件』/『フルーツバスケット』3・4巻(高屋奈月)ほか 2001年01月20日(土) 英雄、果つる島/映画『アヴァロン』ほか
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藤原敬之(ふじわら・けいし)
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