無責任賛歌
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2005年11月08日(火) |
コメとライスは別のもの/『アキバ署! AKIHABARA POLLICE-STATION』01(瀬尾浩史) |
しげが「今度の米、パサパサやろ」と言う。 確かに、これまでの米はかなりモチモチとしていて、水の加減を間違えるとべちゃべちゃになってしまっていた。弁当に詰めてもらうと、昼時になってフタを開けようとすると、水分が蒸発して収縮したせいだろう、押しても引いてもビクともしないくらいであったのだが、最近は比較的開けやすくなっていた。味は確かにさほど甘くなく、「これは米です」と主張しているだけという感じがする。 「中国の米なんで安かったんよ」と言うので、ああ、舌に合わないのはそのせいか、と思ったが、同時に「安全性は大丈夫かなあ」と思ってしまったのは、やはり中国に対する不信感をかなり刷り込まれているのである。 コメの自由化は結局、他国の文化への偏見を増大させただけのように思う。日本のコメにだって美味いコメ不味いコメはあるが、これ以下はちょっとという下限が作られてしまっている。稗と粟だけ食ってた昔を思い出せったって、そんな時代を知ってる人間が絶滅してしまってるんだから、そんなのはただの精神論にしかなっていない。贅沢だと言われようが、日本人は日本のコメしか食わないのである。 だから、中国米を好んで食べる日本人がいれば、逆に偏見の目で見られることもあると思う。そういう偏見はよくないと言われても、どの国にも固有の文化はあって、それ自体は悪でも何でもないのだが、そこにやはり「壁」は存在しているのだから、その壁を無理やり壊そうとすれば、何らかの諍いが起きるのは必然なのである。 「変えていったほうがいいしきたり」と「触れちゃいけねえしきたり」とを識別することはなかなか困難なことだけれども、自給自足の面から考えても、日本のコメ文化を簡単に壊しちゃいけないよな、と思うのである。 とりあえず次から中国米はもういいや。
『1リットルの涙』第五話。 亜也(沢尻エリカ)の病気のことが、ついに妹や弟にも明かされる。伝えるのがちょっと遅すぎたんじゃないかと思うが、家族に真実を伝えるものかどうか逡巡している両親の心の葛藤を描いているようでいて、実は単にドラマ展開の都合で、ここまで「引いて」ただけってのが見えるから、どうにも胸糞が悪い。 亜也に身障者手帳を取らせるかどうかで一悶着あるのも、どうにも薄っぺらい。母親の潮香(薬師丸ひろ子)に向かって、父親の瑞生(陣内孝則)が「国の世話にはならねえ」「娘にレッテルを貼りたいのか」と言って激高するのはいかにもわざとらしく、「作りすぎ」である。仮に内心、そのように思っていたとしても、娘の病状が日一日と悪くなっていく様子を見ていながら、父親としてなおもそのように体裁に拘るようなことがありえるのかどうか。陣内孝則をキャスティングした時点で間違いだという考え方もあるかもしれんが(笑)。 脚本家はもちろん「善意」からこのドラマを書いているのだろう。しかし善意の作品というのは往々にして押し付けがましく、説教臭くなりがちである。あるいはその説教の青臭さゆえに時には「お笑い」と化してしまう場合もある。 薬師丸ひろ子が身障者手帳の理念を「すべての身体障害者は自ら進んでその障害を克服し、その有する能力を活用することにより、社会経済活動に参加できるように努めなければならない」と説明するシーンなどは、感動的なシーンであるにもかかわらず、「そんなセリフを暗唱できるお前は何者か」という不自然さの方に笑ってしまうのである。
『鬼嫁日記』に『タモリのジャポニカロゴス』を見た後、録画しておいた、『ドラマコンプレックス』版の『理由』を見る。寺田農をレポーターにして、報道ニュース番組仕立てにしたのは面白い編集だったが、オリジナル版を見ていない人には「そっちの方を見てよ」と言いたくなる仕上がりである。基本的に大林宣彦監督って、自分の「思い付き」に振り回されるタイプの人で、自分の演出の効果までは考えずに撮ってる人だから、あまり「巨匠」なんて呼んじゃいけないと思うのである。
マンガ、瀬尾浩史『アキバ署! AKIHABARA POLLICE-STATION』01(講談社)。 警察官の凸凹コンビもの……と言ったらもうそれだけで食傷気味なほどにドラマでもマンガでもありふれている設定なのだけれど、タイトルにある通り、舞台を秋葉原にしている点がまず凡百の「コンビもの」と一線を画している。電脳とオタクの街を舞台にして、どんな犯罪が生まれ、どんな警官が必要とされるのか、それをシミュレーションしたのが本作、というわけだ。なるほど、日本でそういう「街の特殊性」を活用して刑事ドラマが作れるとしたら、魔界都市(笑)新宿を除けば、秋葉原に如くはないかもしれない。 もちろん、秋葉原を舞台にするからには、作者は「電脳とオタク」に詳しくなければならないし、更にはそれを「電脳とオタクに詳しくない人々にも面白く伝える技術」にも長けていなければならないわけだが、その困難な条件を軽々とクリアしていることに舌を巻いた。 そのためには、主人公がどれだけ魅力的であるかがポイントになってくるのだが、この二人のキャラクターの設定が見事に秋葉原という街にマッチして機能しているのである。 方やMIT出身で情報通信局技術対策課の“元”ホープ、キャリア技官のメガネっ娘警部補・久遠あまね。 方やヤンキー崩れ、機動隊崩れで未だに秋葉原のバンチョー(笑)という、ハイテクはからきしアウトのアナログ刑事・伊武一弥。 物語は、「外神田警察署」に、「ハイテク犯罪相談室」が新設され、そこにあまねが「飛ばされて」赴任するところから始まる。あまねの「現場教育係」としてコンビを組まされたのが伊武なのだが、コンピューターなんて全く扱えず、「IT」を「DDT」とか「ライチー」とか言い間違える自分がどうして配属されたのか、その理由が本人には全く分からない。もちろんそこには、キャリアであるあまねが場末の警察署なんぞにトバされてきた「相応の事情」ってやつが大きく関わって来ているわけである。署長が伊武に告げる一言がイイ。「彼女を暴走させるな」。 即ちあまねのスキルがハンパじゃないってことなんだね。一歩間違えれば、というよりもこれはもう「ハイテク版必殺!」と称してよいほどにあまねの性格は「目には目を、ハイテク犯罪にはハイテク犯罪を」って思想の持ち主なのである。まあ実際、現実の犯罪は警察の手に負えないほどに複雑化、ハイテク化が進んでいるわけで、それに対応しようってことになれば、あまねのようなスキルと「正義感」の持ち主にしてみれば、「非合法行為」に走るのも当然ってことになるのである。 キレイゴトが言いたいそこのキミ、あまねのこのセリフをちょっとじっくりと考えていただきたい。Hムービーをネット公開されてしまった女子高生のために、そのファイルをデリートするためのウイルスをばら撒いた後で、あまねは伊武に向かってこう叫ぶのである。 「ニュースはあっという間にネットに浸透しますヨ。どうなると思います? それこそ何十万、何百万っていうユーザーが、あのムービーをダウンロードし始めるんです。それを警察が防げますか? 数十万件の令状を取ってムービーを回収しますか? そんなの無理じゃないですか!? セキュリティホールだらけなんですヨ、この国の法(コード)も! 社会(システム)も! それを使う人間も!! そんなのにただヤミクモに従うだけじゃ、救えないじゃないですか! 目の前にいる、たった一人の女の子の心だって」 現実にこんな被害に遭っている女性は多分たくさんいるだろう。犯人を逮捕したところで、一度撒き散らされた画像が回収できるわけではない。逆に警察がおおっぴらに動くことで、そういった画像を「宣伝」してしまうことになりかねないのが「IT革命」とやらを経た日本の現状なのだ。 警察や国が無力であることは「本当に」こう考える人々が必要になってくるということである。あまり他人事と笑ってられない事件をこのマンガは扱っているのである。 もちろん、あまねの「暴走」にも問題は多々あるわけで、そこでコンビの伊武さんの存在が重要となってくるわけだが、普通のキャラクターならば、あまねの前記のセリフに言い返すことができなくて、警察の、自分の無力さにショボンとしてしまうところである。ところがこいつはそんな殊勝な刑事ではない。あまねに向かってニヤッと笑い、「ようやく聞けたな、お前さんの本音が」と、これまでの「挑発」が、あまねの人格を見抜くための「引っかけ」であり、あまねが自分と本気で組める相手かどうかを確認するための「手段を選ばない」罠であったことを明かす。「なんかやる時は、俺も共犯にしろ……つってんだよ」いやあ、青二才には絶対に言えないセリフだ。 こういう「食えない」やつが、アタマはいいけど直情径行、猪突猛進なあまねみたいなやつの押さえ役としては最適なのである。これが古典的な「コンビドラマ」のセオリーってやつなのだね。だからハイテクに詳しくない読者にもこの物語が面白く読めるようになっているのである。 惜しむらくは、絵柄に華がないことであるが、2巻、3巻と続いていくうちにそのへんは改善されてくんじゃないかな。「最近面白いマンガが少ない」とお嘆きのあなた、それは単にあなたのマンガアンテナが壊れてるだけかもよ。
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