無責任賛歌
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2003年09月19日(金) |
回想の妻/『にっちもさっちも 人生は五十一から』(小林信彦) |
職場の若い子がフンフンと鼻歌を歌ってたので、何かと耳を傾けてみたら、これが『ゲッターロボ』。「若い命が真っ赤に燃え〜て〜♪」という出だしの部分だった。当然、本放送のときに『ゲッターロボ』を見ているはずはない。「再放送で知ってるの?」と聞いたら、一度も見ていないし、『スパロボ』も知らないと言う。 「じゃあなんで知ってんだよ」 「いや、カラオケで……」 友達と一緒に出かけたときに知ったんだとか。 「番組も知らないのにそんなに燃えられるものなのかなあ」 「だってカッコいいじゃないですか!」 カッコいいのはわかったから、「じゃないですか」と語尾につけるのはやめてちょ。 なんかイマドキの若い人はゲームもあまりしないみたいね。でも友達とカラオケに行ったからと言って、コミュニケーションの取り方がうまくなってるかと言うとそうでもない印象なのはなぜなんでしょ。
ようやくしげ、仕事休みが取れる。 久しぶりに私の職場まで迎えに来てもらって、4日遅れのしげの誕生祝いにキャナルシティまで繰り出すことにする。明々後日が父の誕生日なので、ついでに父へのプレゼントも買えるので一石二鳥。しげは「箱崎の『ゆめタウン』に行こうと思ってたのに」とブー垂れる。そんなんどっちでもいいじゃん。あそこは本屋がないんであまり好きじゃないのである。しげ、「オタクな本屋なんて、普通ないよ」と吐き捨てるように言う。自分だって紀伊國屋に行ったときはずっとサブカルのコーナーにいるくせになあ。
途中、グッデイに寄って、車用のマッサージシートをしげにプレゼント。なんかムチャクチャ実用的なプレゼントであるが、最近、仕事が忙しくて立ちっぱなし、相当腰を痛めてるようなので、少しは役に立てばいいんだが。なんかこういう健康器具の類って、「ぶら下がり健康機」の昔からあまり信用ならんなあと思ってるんで。 早速、シートを座席に設置して、振動部がちょうど腰に当たるように枕で高さを調整し始めるしげ。電源を入れると、振動が助手席のこちらにまで伝わってくる。なんかしげの目もキラキラしだした。……喜んでくれてるというより、エサ撒いた途端に池の鯉が口開けて飛びついてきたような感じがするのは気のせいか。
キャナルシティ到着は6時過ぎ。外はもう暗くなっていて、日が落ちるのが随分早くなったなあ、と感じる。 父へのプレゼントは、なんか適当な服をしげに選んでもらう。色とかわかんないからこれはしげに頼んだ方が無難なのである。
そのあと、四季劇場に回って、『オペラ座の怪人』のチケットを購入。予定日は土曜の昼なのだが、既にほぼ満席で、後ろの方の席しか残っていない。平日はまだ空いてるんだろうなあ。土、日しか動けないから、仕方がないんだが。
福家書店で本を買いこんだあと、いったんキャナルから外に出る。 しげがやっぱり誕生日の祝いは「焼肉で」と言うのである。ちょっと違うんじゃないかとも思うが、まあいいか。で、前からいっぺん行ってみたかった「大東園」に入る。週末で随分込んでいて、30分ほど待たされたが、ようやく着いた席で注文した肉の数々、この味がもう、これまで食べた肉の中でも最上の部類。いやホントマジで「肉ってこんなに美味いモノだったか」と思ったね。 ロース、ハラミ、フィレ肉、豚トロ、どれも美味いが、サイコロ形に切ったフィレ肉はもう絶品である。六面満遍なく焼いて、タレもつけずに味見(私は焼き肉は最初はタレを付けずに肉の味そのものを味わう)。程よく焼けた肉の歯応え、中は柔らかいが、決して火が通ってないわけではない。甘い肉汁が口いっぱいに広がって、肉そのものは舌の上でとろける。いやホントにこれが比喩じゃないんだ。 肉はできるだけしげに食べさせて、私は冷麺を注文。まず麺の腰がいい。スープはキムチを混ぜなければさほど辛くなく、ちょうどいい具合に細麺に絡む。チャーシューと一緒に平たく白い円盤みたいなのが乗ってるから、いったいなにかと思ったら、これがスライスした「梨」であった。これがまたよくスープに合って、爽涼感まで感じさせてくれる。これでは一枚乗ってるチャーシューが、スープの味の前にかえって邪魔なくらいだ。おかげで、いつもは残すスープも、今日はつい全部飲んでしまった。なんだかここまで満足できた食事と言うのも珍しい。 時間が合えば映画も見ようかと思っていたが、特に見たいというほどのものがなかったのと、しげの腰の調子がまた少し悪くなって来たので、そのまま帰宅。でもまあ、充実した夜であった。 実はどこの店に入るかでまたちょっと口ゲンカしてはいたのだが(^_^;)。
帰宅した途端にしげはバタンキュー。 チャットに入ったら、あやめさんがご来臨。奇しくもあやめさんも今日が誕生日であった。おめでとうございます。〜( ̄▽ ̄〜)(〜 ̄▽ ̄)〜 って、ウチは4日遅れで誕生日してるんだけど(^_^;)。
しげのことをあやめさんが「おねえたま」と呼んだので、なんか凄い違和感を覚える。人はやっぱり出会った時期からそうトシを取った感覚で見ることはできないもので、しげに最初に会ったとき、あいつはまだ、15歳だった。てことは、もうあいつの人生の半分近く、私は一緒にいるわけである。 初対面のころのしげの印象は今でも鮮明に覚えている。当時、私のいた劇団にあいつが訪ねてきた。わざわざ自分からやってきたのだから、入団したいのかといろいろ声をかけてみた。ところがこいつがともかく喋らない。 「芝居に興味があるの?」 「……」 「好きな役者さんとかいる?」 「……」 「最近見たドラマとかは?」 「……」 取りつくシマもないとはこのことである。ともかくいくら声をかけても返事一つしないで、ただ黙っているだけなのだ。 普通ならここで「黙ってるだけなら帰れ」と追いかえすところだが、口は開かないが、目だけは私を真っ直ぐ見つめて全く逸らそうとしない。そして時折唇がモゴモゴと何か言いたそうに動く。 もしかしてこれは、何か私に挑戦しているのか、と思った。芝居を一緒にしていくに足る人物かどうか、試されてるのかも、と大いなる勘違いをしたのである。ああ、勘違い(by『欽ドン』)。 これは何としてでも口を割らそう(って何か悪いことしてたわけじゃあるまいし)と、ともかく芝居の話を延々とし出した。演劇論、演技論、なんかその場で簡単なマイムまで披露したような気がする。それでも反応はやっぱりない。やはりただこちらを凝視して口をモゴモゴさせているだけである。 それでも懸命に私はずっと喋り続けた。1時間近く、一人で喋って、ついに私は負けた。 「……ま、芝居が面白そうだと思うなら、また明日来なさい」 で、次の日も、その日と同じ光景が演じられたのであった(-_-;)。
あとで聞いたら、その日はしげ、「よく喋る人だなあ」と感心して聞いていただけなんだそうな。単に最初から喋る気がなかったんである。ドテっぱらに風穴空けてカツブシつっこんでネコけしかけてやろうか。
なにしろその頃のイメージが強い。強すぎる。 だもんで、普通ならあいつの成人式にまで付き合ってるというのに、私のしげへのイメージは、そのころで止まったままなのである。と言ってもさすがに15歳とは思えないので、18歳くらいで止まっているのだが。それでも若すぎるか。
小林信彦『にっちもさっちも 人生は五十一から』(文藝春秋・1550円)。 『週刊文春』好評連載のシリーズ最新版、2002年度の分である。改めて言うまでもないけど、小林さん、今年で71歳だから、タイトル見て勘違いしないように。 読んでくと、書きたいことがたくさん出てくるんだがなあ。でもとても全部には触れられないからなあ。こうなったら毎週『週刊文春』買って、感想書いてこうかなあ。もったいないからしないけど。
小林さんが『千と千尋の神隠し』を高く評価している点は嬉しいことだ。私自身はどちらかと言うと『千と千尋』は宮崎駿作品としてはつまらない部類に入ると思うけれども、小林さんが誉めるのは“わかる”のである。 「アニメという特殊性に閉じこもるのではなく、むしろ、“映画として開かれている”」という指摘が評価の根拠になっているからだ。宮崎さんが森卓也さんに語ったという「『荒野の決闘』で、ワイアット・アープがクレメンタインと腕を組んで協会に近づいてゆく時、地上を雲の影が流れる。それをアニメはまだ描けない」という言葉、多分この本で紹介されるのが初めてだと思うが、アニメファンには必読ではなかろうか。これを単に「宮崎アニメは実写志向」、と誤解してはならない。 「必要な描写を描くための技術を作り出すこと」、という「演出論」として語っていると捉えなければならない。 「後半の水の上を走る電車、車内での少女の孤独感の描写が、そこまでの狂騒的な気分から観客を浄化してゆく」というのも嬉しい指摘。「あそこのところはよかったね」とずっと以前によしひと嬢と話したことがあったが、まさしくあのシーンこそが「映画」としての白眉なのである。「『エヴァ』じゃん」という突っ込みはできるけどね。
鮎川哲也さんのエピソードはちょっと悲しい。 人間不信ゆえに、鮎川さんが小林さんとちょっと疎遠になりかけた話だ。これもミステリファンは必読のエピソード。 ほかのはもう、実際に読んでみてくださいな。
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