無責任賛歌
日記の表紙へ昨日の日記明日の日記




ホームページプロフィール掲示板「トーキング・ヘッド」メール
藤原敬之(ふじわら・けいし)

↑エンピツ投票ボタン(押すとコメントが変わります)
My追加


2003年09月15日(月) 西手新九郎は「心の遊び」に留めておこうね/『アレクサンドロス 〜世界帝国への夢〜』(安彦良和)

 ここ数日で訃報が伝えられた外国の有名人、ジョン・リッター(俳優。『ノース』など見たことある映画も何本かあるみたいだけど記憶にない)ジョニー・キャッシュ(カントリー歌手。『刑事コロンボ/白鳥の歌』の犯人、トニー・ブラウン役も演じていた)、ジュールズ・エンゲル(アニメ作家。『ローンレンジャー』が代表作)、ジャック・スマイト(映画監督。『動く標的』など)と、イニシャルが全員J。よくある偶然ではあろうが、「次にまたJの人が?」とつい思ってしまうのが心のさもしいことである。
 昔、「アメリカの大統領は、当選年が20年置きの者は事故にあうか暗殺されて任期を全うできない」というジンクス(つか俗説)があって(リンカーンは1860年、ケネディは1960年の当選)、それを初めて聞いた時には、素直に「そういう『呪い』ってあるんだなあ」とか思っていた。恥ずかしいことに、1980年にレーガンが当選した時も、「ああ、この人、途中で事故か暗殺にあっちゃうんだ」、とか半ば信じていたのである。レーガンは暗殺未遂にこそあったが(この犯人もこの俗説を信じてたのではないかな)、無事任期を終了した。そこでようやく「ただの偶然」という言葉が私の脳に浮かんできたのであるが、世間でのこの「運命の偶然」を信じたがる傾向は、「暗殺“未遂”も可」という方向にスライドしてきているようである(~ー~;)。これなら2000年当選のブッシュさんも、任期満了できても、例の9.11を挙げて「暗殺未遂」と強弁できるわけだ。人の命を弄びたがる心理というのは、不謹慎の謗りをかわすかのごとく、こういう「軽い」形で現れるものなのだね。
 こういう「偶然」をいろいろ挙げていったら、「トリビア」がまたひとつできそうではあるな。もっとも限りなく「でっちあげ」に近いトリビアではあるが。


 しげとよしひと嬢、今朝は6時半に朝帰り。打ち上げからそのままカラオケに雪崩れこんで朝まで歌っていたのである。そこまでの体力は私にはもうない。大台とか言ってるが二人とも全然若いよ。
 今日仕事があることを考えれば、打ち上げに行かなかったのは正解だったろう。


 本日は休日出勤、アキレス腱を切った上司も「今日は用事のあった人も多いだろうにねえ」と愚痴をこぼすが、台風のせいでの出勤振替だから仕方がない。
 それより困っちゃうのが、今日がしげの誕生日だということだ。祝日が誕生日というのは、学生のころには友達から忘れられてしまうという弊害があるが、家庭を持てば一緒にゆっくり過ごせるというメリットの方が大きい。入籍を大晦日にしたのも、まさかこんな日にまで出勤を強要する会社もそうはなかろうと考えたのだが、現実は全く違っていたので、全く日本人のワーカホリックもここに極まってるなと感じたものだった。
 よっぽど仕事を休もうかと思ったが、そうもいかない。事情を上司に話すと「家庭の危機ですねえ」と言われた。いやマジでな(-_-;)。しかも仕事が長引いて、早く帰宅できるはずが結局残業。七時過ぎに帰ってみると、しげはよしひと嬢を送って出かけていた。全くのすれ違いの誕生日である。このままだと今年の年末もいったいどうなることやら。


 マンガ、安彦良和・NHK「文明の道」プロジェクト『COMIC Version NHKスペシャル文明の道1 アレクサンドロス 〜世界帝国への夢〜』(NHK出版・1680円)。
 安彦さんの『ジャンヌ』『イエス』に続く歴史ファンタジーの第3弾。もっとも『ナムジ』や『蚤の王』なんかも含めたらもっと数は増えるから、もうこのシリーズは『ガンダム』で語られることの多い安彦さんの、もう一方のライフワークと言っていいだろう。
 もとになったNHKの番組の方は見てないのだけれど、ドキュメンタリーとは言え、後世の人間の「解釈」が入る以上、歴史は所詮「物語」である。まるのままの虚構だとまで断言する気はないが、こうして「マンガ化」された「歴史」を見ていると、真実とか事実とか人間は本当は必要としていないのだなあ、とつくづく思う。
 以前、故池田満寿夫が「写楽」の正体を歌舞伎役者・中村此蔵だと推理した時に、故吉行淳之介が「真実がどうあろうと、私の『写楽』はこれで決まり」と断言したが、「歴史認識」とかたいそうなことを言う人は多いが、結局はそういうものである。その点、歴史を物語として綴ろうとしている『戦争論』の小林よしのりの基本姿勢には賛成している。ただその内容には賛同していない。そこで語られている「物語」が杜撰で面白くないからだ(『戦争論』は全シリーズ読んだけど、感想を書かないのはそういうワケ)。
 アレクサンドロスと言うかアレキサンダーと言うか歴山と言うかイスカンダル(^o^)については、以前、なんだかなあ、な、角川アニメがありましたが、その伝で行けば実像とどんなに違っていても、安彦さんの描く彼は実に「面白い」。
 たった1巻であるために、最大の敵であるペルシャ王ダレイオス三世との対決のドラマがいささか薄く感じられるキライはあるが、夢多き少年が疑心暗鬼に躍らせられ、かつての忠臣を粛清していく暴君と化していく過程は、安彦さんの「王もまた人間」という視点がハッキリしていて、安彦さんの「歴史家」としての思想基盤もここにあるのだろうと察せられる。
 それを象徴しているのが、やはりその粛清の対象者となった従軍歴史家、カッリステネスであろう。安彦さんはこの人物に随分思い入れがあるようで、そのキャラクターデザインもどこか安彦さんの自画像に似ている。
 哲学者アリストテレスの甥にして、アレクサンドロスにとってのホメロス(もちろん『イリアス』『オデュッセイア』の作者ですね)たらんとするカッリステネスは、堂々と「見てきたようなウソを書く」と断言し、アレクサンドロスを美化した「歴史」を書き、「アレクサンドロスの名声は後世にボクの書いた歴史として伝えられるはずサ」と嘯く。しかしその彼が、途中でアレクサンドロスの歴史を書くことをやめてしまうのだ。 
 物語は常にそれを支えるテーマたる「思想」を必要とする。わかりやすいのは日本軍における「大東亜共栄圏」であろう。あれを単純に「幻想」と呼ぶのは簡単であるが、適切なことではない。そう断定してしまえば、人間の思考は全て「幻想」にすぎないとしか言えなくなる。アレクサンドロスの「東征」には、初め「蛮族ペルシャの侵略を打倒するギリシャの聖なる戦い」という「思想」があった。しかし、エクバタナの地をダレイオスが逃亡し、コリントス同盟が解散されても、アレクサンドロスは執拗なペルシャへの「報復」を続けた。そしてその時点でカッリステネスは「歴史」を書くことを止めたのである。
 ダレイオスをついに倒したアレクサンドロスは、その後継者としての地位を喧伝するためにペルシャ式の礼拝を自分に行うよう、家臣たちに求めた。それを唯一拒絶したのがカッリステネスである。既にそのとき、忠臣たちの粛清は始まっており、自らもまた処刑されることを彼は覚悟していただろう。アレクサンドロスはペルシャ式儀礼を行うことを廃止したが、カッリステネスは「王暗殺計画」の嫌疑をかけられ、逮捕され、行軍の最中に衰弱死する。
 彼は最後に、この物語のもう一人の語り手、後のトラキア王リュシマコスにこう語る。「アレクサンドロス。思っていたよりも不可解な男だったが、所詮人間だ。あれもいずれ死ぬ。だが歴史を作った。それは間違いない。すべて書き残すつもりだったが手に余った。残念だ」。
 このセリフはもちろん、安彦さんの「創作」だろう。そういう思想でカッリステネスがアレクサンドロスの歴史を描いていたとは限らない。しかし、「所詮人間」と言うその脆弱さ、「歴史を作った」「手に余る」ほどの強靭さと壮大さ、その二律背反した性質こそが、人の持つ「謎」の本質であり、だから我々は人と歴史とに「夢」を抱いて行けるのだろう。
 安彦さんの思想自体には充分に「真実」と「普遍性」があると思う。虚構と真実とは決して相反するものではなく、人間の、歴史の、表裏一体となったアニメーションうちわの両面のようなものだ。死者は常に「神」に祭り上げられる。しかしカッリステネスの跡を継いでアレクサンドロスの偉業を語り継ぐリュシマコスもまた断言するのだ。
 「あの人は決して神ではなかった。人間だ! たとえ半分といえども神なんかではなかった! 欠点の多い、大酒呑みの、自惚れやで傷つきやすい、愛情が豊かで酷薄な、誇り高い、そして誰よりも勇敢な、マケドニア生まれのよい青年だった!」
 このセリフもまた安彦さんの創作だろう。しかし、これが虚構であるか真実であるかはどうでもいいのだ。安彦さんがどういうアレクサンドロスを語りたいのか、そしてそれを我々読者がどう受け取るのか。歴史ものを読むポイントは、実はそこにしかない。

 伝えられるアレクサンドロスの臨終の言葉は、側近の「後継者は?」の問に答えた「クラティロス(最も強き者を)」である。この言葉が原因となり、ほぼ半世紀に渡る「ディアドコイ(後継者)戦争」が起こることになる。
 安彦さんの描くアレクサンドロスは、「夢が全てだった」と呟いて死ぬ。
 前者が真実で、後者がウソなのではない。どちらも「物語」なのだ。どちらの物語の方を我々がより面白いと感じるのか、「こんなのアレクサンドロスじゃない!」と憤る読者もいるだろうが、「物語」は常に虚実皮膜の境にあるという近松門左衛門の言葉を噛みしめてもらいたいと思う。

 そういやこのマンガ、あの「ゴルディアスの結び目」のエピソードも描いてないな(^o^)。

2001年09月15日(土) オタクなばーすでぃ/映画?『スペースカッタ2001』in「山口きらら博」ほか
2000年09月15日(金) ネパールとサウスパークとおだてブタと/『ブタもおだてりゃ木にのぼる』(笹川ひろし)ほか



↑エンピツ投票ボタン
日記の表紙へ昨日の日記明日の日記

☆劇団メンバー日記リンク☆


藤原敬之(ふじわら・けいし)