HOME*お天気猫や > 夢の図書館本館 > 夢の図書館新館

夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2009年02月10日(火) --

TOP:夢の図書館新館全ての本

『記憶の小瓶』


「誰かの幼年期の話というものは、ただそれだけで、聞く人の幼年期の記憶を呼び覚ますものなのではないでしょうか。」

と著者がいうのはもっともである。呼び覚ますことこのうえない。

児童文学作家として名作を残した作家が、2歳ごろからの記憶を掘り起こして書いたエッセイは、やはり相当なよじれ具合で、著者のいうように、自分自身の幼少期のあれこれを記憶の倉庫から引っ張らずにはいられなかった。記憶の小瓶ならざる、錆びた倉庫の奥から。

高楼さんが、「まあちゃん」と呼ばれていたのなら、私も「まあちゃん」だったことがある。「まあこさん」だったこともある。まあどうでもいいようなことだが、そういう類似からも記憶は揺さぶられるものなのだ。

子ども時代のまあちゃんは、しかも文学的な才能の片鱗を、さほど感じさせない。もちろん周囲から見ればあったはずだが、ただ、彼女には、級友たちのなかの秀でた絵や文章の才能に対して他の子よりも敏感に「すごい」と感じられるアンテナがあった。当時の才能ある子たち(本人が書いたのかどうかは別として)へのコンプレックスは、今もまあちゃんのなかには残っているらしい。そういう才能が、後から獲得して身に付けるものではなく、当人の内部にしかないものなのだと、当時はそういう言葉で分析はできなかったが、いまだに思い続けているというのだから。そして、その観察力こそ、児童文学作家に欠かせない才能だと強く主張したい私がいる。

どの話も面白く、特に最初から死にかけた武勇伝で始まるのだから勢いがあるが、やっぱり面白さの種は、幼い少女の心が記憶した人間関係の不可解さと微妙さではないだろうかと。

見たかった光景と見たくなかった光景が、年月の中で丸められ、同じ大きさになって、記憶の隅に並んでいる。(引用)

(マーズ)


『記憶の小瓶』著者:高楼方子 / 出版社:クレヨンハウス2004

2006年02月10日(金) 『ひと月の夏』その2
2005年02月10日(木) 『チャングム』
2004年02月10日(火) ☆1800年代の後半。
2003年02月10日(月) 『ひかりの国のタッシンダ』
2001年02月10日(土) 『夏草の記憶』

>> 前の本蔵書一覧 (TOP Page)次の本 <<


ご感想をどうぞ。



Myエンピツ追加

管理者:お天気猫や
お天気猫や
夢図書[ブックトーク] メルマガ[Tea Rose Cafe] 季節[ハロウィーン] [クリスマス]

Copyright (C) otenkinekoya 1998-2006 All rights reserved.