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夢の図書館新館

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-- 2008年09月20日(土) --

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『不機嫌な子爵のみる夢は』

ブリジャートン、ブリジャートン、ブリジャートン!

シリーズの邦訳三作目は、いよいよブリジャートン子爵の嫡男、もうすぐ放蕩に明け暮れた20代を終えようとしているアンソニー。18歳のとき、突然父を失った痛みから、自分自身の寿命を父の死までと設定したのだ。邦訳第一作の『もう一度だけ円舞曲(ワルツ)を』では次男のベネディクトがシンデレラをベースにしたロマンスで結婚。第二作の『恋のたくらみは公爵と』では、長女のダフネが、いかにもハーレクイン的な偽装婚約から逆転ゴールイン。ただし、訳者あとがきでは本作がシリーズ第二作とあるので、ブリジャートン家の、アンソニーからヒヤシンスまでのアルファベット順に名付けられた子どもたちは、実際には妹のダフネが先で、アンソニー、ベネディクトの順で結婚していったものらしい。

今回の下敷きになっているのは、オースティンの『高慢と偏見』、あのダーシーとエリザベスのカップルが、アンソニーとケイトというわけなので、それ自体、面白くないはずがない。そしてもちろん、これはかの、母ヴァイオレットのもとに愛情をもって結集しているブリジャートン一族の話、しかも長男のアンソニーが最愛の女性と出会い、自分自身と折り合いをつけていく話なのだから、面白くないはずがない。そしてそれ以上に、切ない展開というか、不安と安心が交互に来るようなエピソードの連続で、読むうちに自分も成長していくような気分にさせられる。

ヒロインのケイトは、実の親同様に育てられた継母の子、妹のエドウィーナを社交界にデビューさせるため、家族でロンドンに滞在している。17歳のエドウィーナは小柄ながら誰もがはっとするほどの美人、貧しいシェフィールド家にとって彼女の美しさが頼みの綱なのだ。一方姉のケイトは背が高く、実は彼女もじゅうぶん美しいのだが、21歳というのは社交界的にはかなり行き遅れている。父はもう亡い。だから、本人も家族も、まずはエドウィーナを結婚させ、その余力でケイトを、という筋書きを立てている。もちろん経済力だけでなくエドウィーナに幸せな結婚をしてもらうのが前提なので、姉は言い寄る男たちを面接官よろしくジャッジするのだが…エドウィーナを妻にするべく行動に出たアンソニー・ブリジャートン子爵の登場によって、ケイトの思惑は方向をそれ、アンソニーもまた、「妻となる女性を愛さない(自分が早死にするから)」という誓いを崩されてゆく。

意地悪な女性はほんの少しだけ登場するが、基本的に誰も悪い人は出てこない。みな、自分自身や相手によかれと思って行動しているだけである。それでもロマンスと同時に涙がつきまとうのは、愛する家族にだけは知られたくない秘密のトラウマを、アンソニーもケイトも抱えているから。長男と長女だからわかる、責任感についても言及される。ふたりが刺激的なやりとりを通じて、お互いへの境界線を踏み越えてゆく課程が、しっかりと描かれているのだ。

作中で読書好きのエドウィーナが読んでいるのが、女流作家オースティンの最新作、ということになっている。あと書きによれば、舞台となった1814年ごろ、オースティンはまだ、「By a Lady」の筆名しか公表していなかったというのも丁寧な補足である。そういえば、謎の社交界新聞で常に社交界の話題をひっさらう「レディ・ホイッスルダウン」の正体が、次回作で明らかになるらしい、とも書かれている。今度の主役は、コリン・ブリジャートンとのことである。これまた大いに期待したいところだし、次回の下敷きはいったい何か、という予想をあえて言わせていただけるのなら、有名な恋愛オペラのいずれかではないだろうか、と妄想する次第である。(マーズ)


『不機嫌な子爵のみる夢は』著者: ジュリア・クイン/ 訳:村山美雪 / 出版社:ラズベリーブックス2008

2005年09月20日(火) 『アンデルセン 夢をさがしあてた詩人』
2002年09月20日(金) 『子どもと本の世界に生きて』
2001年09月20日(木) 『魔女ジェニファとわたし』
2000年09月20日(水) 『「我輩は猫である」殺人事件』

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