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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2008年12月18日(木) --

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『十一月の扉』

少し読みかけて季節が変わってしまい、ほぼ一年ぶりに手にして、ひと息に読んだ。やはり11月という季節に読み終えたいと思っていたから。

高楼さんの本は2冊目。主人公の爽子が、十一月荘という家庭的な下宿で、家族と離れ、独りの生活を送る時間をていねいに描いている。ほんの数週間の記録ではあるけれど、家族とは違った、でも家族のような女性たちとの、「距離」と「成長」の物語である。

同世代の親しい友人との距離、ずっと年上の親しい人との距離、幼い女の子、そしてどこか本心が見えない母親との距離。あるいは、ほんのひととき、誰かと自分だけの忘れがたい時間を持つこと。それを誰かに話す必要はないこと。もちろん、どうしても話したい人には話せば良いこと。自分自身との距離を持つこと。そんな距離感を測ることが、中学2年生の爽子にとっては、どれほどに大切か。本人が意識していようといまいと、それらの関係を見つめることが、成長することそのものなのだから。

爽子が十一月荘を去る時になって、なぜ爽子がここで受け入れられたかも明らかにされる。それは最初にあるよりも、やはり最後にあるからこそ、慎ましいのだ。そう、ここに広げられたタペストリーの「つつましやかな」成り立ちには、時を紡ぐ喜びが織り込まれている。人生の機微を知る喜び、自分を見つけてゆく喜び。誰かのしるべになる喜び。

ものを書く少女である爽子の心情は、同類の心を繊細になぞる。作品の随所に挿入された爽子による「ドードー森」のお話が気に入ったら、ぜひ「こそあどの森」シリーズ(岡田 淳著)も読んでほしい。

そして爽子の初恋も、この十一月荘とともにある。英語の勉強に十一月荘の住人を訪れる耿介は、やがて誤解を越えて、爽子と心通う友になって、そして。 文庫本の巻末には、「耿介からの手紙」が収録されている。「昔、アン・シャーリーに石版で頭をぶたれ、その痛さをギルバートと共に全身で感じた」(引用)という長年の高楼ファン、斎藤惇夫さんによる、耿介からの30年後の便りである。(マーズ)


『十一月の扉』 著者:高楼方子 / 出版社:新潮文庫2006

2002年12月18日(水) 『ミッフィーのピクニックブック』
2001年12月18日(火) ★冬休みのお知らせ。
2000年12月18日(月) 『植物一日一題』

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