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今年は、『エンブリオ』(帚木蓬生/集英社)をはじめ、随分、医学エンターテイメント小説を読んだ気がする。『チーム・バチスタの栄光』(海堂尊/宝島社文庫)とか、『イン・ザ・プール』『空中ブランコ』(奥田英朗/文春文庫)とか…
『ラザロ・ラザロ』は、何というか、面白かったのだけれど、私自身の押し所が定まらず、言葉に表しにくい。どういう話かと言えば、不老不死の新薬をめぐる怪しげな取引に(業務で)巻き込まれる端麗な外資系製薬会社のサラリーマンと正体不明の男の愛(?)、かなあ。あと、随所に、外資系サラリーマンはつらいよ。
誰しも、死を畏れ、老いを畏れ、何とか逃れたい、何とか遠ざけたいと願いもするけれど、ひとりぼっちの不老不死には意味がないんだろうなあと。子どもの頃読んだ漫画に、ひとりだけ不老不死を定められた女性の愛と悲しみを描いた物語を読んだことがあるけれど、あれは怖かった。
細部はよく覚えていないけれど、多分、不老不死は何かの罪に対する一番重い罰で、不老不死を悟られることがないよう、一箇所に留まることも出来ず、恋人ができてもやがてそこから去っていかなければならなくて、何千年も孤独を抱えているというような。子供心に、永遠に続く孤独、というものが本当に怖かった。『ラザロ・ラザロ』読みながら、そんなことを思い出した。
本を読みながら、忘れないように、気になった言葉や心に残る何かがあると、本のページを折ることにしている。いつも、本筋に関係のないところに、折り目が残る。 超美形で端麗な主人公が唯一の友達に漏らす本音。美形ゆえに男にも女にももてるんだろうと言われて、
「いつまでたってもひとりなんだ。どういえばいいのかな、自分の捨て方がよくわらないんだ。」
「最初はうまくいっても、そのうち離れていってしまう、どの友達も。人の気持ちをつなぎとめることができない」
とも。
本筋とは関係ないけれど、この「自分の捨て方」と言う言葉、その「捨て方がわからない」というニュアンスが心に引っかかった。何でもないところなんだけれど、心に残る。主人公のように美形でなくとも、平凡な人間でも、身の処し方がわからない、そんなことはままある。生きていく以上は、たとえわからないままでも、とにかく不器用にでも、何とか前に進んでいかなければならない。どうして、身の置き所がないのか、身の処し方がわからないのか、ああ、自分の捨て方がよくわからなかったんだ、とちょっと瞠目。
ところで、『ラザロ・ラザロ』は10年前に刊行された本で、荒唐無稽だけれど、古さをまったく感じさせない。タイトルも納得で、悔いのない表紙買いでした。
『ラザロ・ラザロ』 著者:図子慧 / 出版社:ハヤカワ文庫2008
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管理者:お天気猫や
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