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毎週楽しみにしている地方新聞連載の一つに、青木玉さんの小さなエッセイ があります。 題材はその季節その季節の食べ物や植物など、ほんの身の回りにあるものだけ。
去年の春庭仕事をしていると本好きのお隣さんが塀越しに、河津桜が 植えたくて、と言いだしました。 ああ、そういえば青木さんが風邪で寝込んで庭の桜を見に出て行けないので、 花のついた枝をさして枕元においておいたら、数日して不思議や桜餅の匂いがする、 という話が新聞連載に載っていましたね。 花の散ったまま残してあった河津桜の枝の葉が香っていたという。 あれを読んでとても欲しくなって、園芸上手のご主人にねだっているのだそうです。
青木玉さんの祖父君はいわずと知れた幸田露伴、母君は幸田文。
母君には六十歳を過ぎてから、案内人に背負って貰ってまで会い行った屋久島の縄文杉や、
切り倒されて材になって後の何千年の命を持つ木などについて語った、
樹木の生命と渡り合う大傑作「木」がありますが、
穏やかな人柄の娘の玉さんが植物について書かれたエッセイ集「こぼれ種」では
取材に行くにしても心寄せるのは人の暮らしと調和した身近な植物、
例えば植木鉢に植え込まれた季節の寄せ植え盆栽作りの現場や植物園。
祖父や母の思い出の残る庭の馴染みの植物と言えども、
その気になって調べてみないと分からない事は沢山あります。
人づてに聞き、本を調べて、実物を見に行って、ああ、と長年の疑問が
附に落ちた時のささやかで深い喜びと言ったら。
専門職に手入れされた植木に囲まれ、見渡す限りの緑の土地で育ったとはいえ、
直に植物に触れる事のほとんどなかった私は、都心で一人暮らしを始めてからやっと、
都内の公園や植物園をあちこち回って木の事を知るようになりました。
緑がありふれている田舎よりも、都会の人ははるかに植物に心をかけて大切に
身近に育てます。
目当ての植物があったら、青木さんのように東京で探せばかなりの種類を見る事が出来るので、是非。
この本のあとがきには四代目(笑)エッセイスト青木奈緒さんによって
母(玉さん)のお気に入りの木の後日談を書かれています。
木を知る、花を知る事は、時を越えた物語と数限り無い個人のエピソードを
思う事でもあります。(ナルシア)
「こぼれ種」 著者:青木玉 / 出版社:新潮文庫
「木」 著者:幸田文 / 出版社:新潮文庫
2003年01月28日(火) 『フードの仕事』
2002年01月28日(月) 『犬も歩けば赤岡町』
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管理者:お天気猫や
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