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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2004年06月28日(月) --

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『野の白鳥』

アンデルセンの新しい大型絵本シリーズ。 生誕200年記念出版というシールが貼ってある。 好みの画家、おなじみの訳者など、 このシリーズにかかわっている人たちへの 思い入れもあって、おそらく何冊かは入手するだろう。

私が子どものころ、もしかすると一番好きだった お姫様のお話といえば、アンデルセンのこの童話 かもしれない。人魚姫も好きだったけど、悲恋という 結末もあって爽快感はなかったし、 同じように変身するお話でも、魔法にかけられて 白鳥になった王子たちが、ヒロインに魔法を解いてもらうのと、 二度と戻れないよと言われながら、恋のため人魚の世界を捨てて 人間になるヒロインは、また種類が違う。

そのころは『白鳥の王子』というタイトルで親しんでいた。 子ども向けの全集に、他のアンデルセン物語と 一緒に入っていたが、絵はそれぞれちがった。 そのときの全集のタイトルと版元がわからなくなって 久しいのは残念だが、あの絵をもう一度見たいと思う。 (版元は小学館か講談社のはず) ネットで古書が入手できる今なら、いずれどこかで 再会できると信じているのだが。

この絵本の絵と、昔好きだった全集の絵とは、 まさにまったく共通点がなくて、新しいエリサは かわいくてやわらかい、支えてあげたいようなタッチだ。 服だってぜんぜん違う。新しいエリサは、ネグリジェみたいな ワンピース姿だし、昔のエリサは、質素でもお姫様らしかった。 白鳥の姿のお兄さまたちも、この絵本では弱々しくさえあるが、 全体のそのやわらかさが、イギリス人のワッツらしい。 (それにしても、「お兄さまたち」という言葉から なんとダイレクトにこの物語が呼び覚まされることだろう!)

なぜそんなにこの話にひかれたのだろう。 長女で弟と二人だった私は、11人もお兄さんがいる エリサがうらやましかったというのもある。 継母のいじわるにさらされるエリサや王子たちに、 同情していたのもある。 後半のヒートアップとハッピーエンドも魅力だった。 人魚姫の恋はまだ理解できたが、エリサが王様と結婚するという 意味は、よくわからなかったけれど。

エリサが処刑を前に、もくもくとイラクサの上着を編む場面、 海の上をお兄さまたちに運んでもらい、なんとかぎりぎり 日暮れまでに休憩の岩へ飛び降りる場面。 太陽が沈むと、白鳥の魔法がとけてしまうのだから必死だ。 「ああ、まにあった!」という安堵を味わうために、 何度も読み返したのがなつかしい。 あれ以来、イラクサという言葉も、その場面をたどる スイッチになってしまったのだった。

日本では『野の白鳥』で通っているが、 アンデルセンの原題は、『The Wild Swans』である。 デンマーク生まれのアンデルセンは、 白鳥の群れ飛ぶ姿を見て、想像の翼を羽ばたかせたのだろうか。 もし、あの白鳥たちが、魔法にかけられた遠い国の 王子たちだったら? そして彼らには、遠い故郷に残してきた妹がひとりいて、 そう、きっとエリサという名前だったのかもしれない、 だから時が来たら彼らは妹のところへ 飛び立ってゆくのだと。 (マーズ)


『野の白鳥』(絵本)著者:H・C・アンデルセン / 文・絵:バーナデット・ワッツ / 訳:角野栄子 / 出版社:小学館2004

2002年06月28日(金) 『DIVE!!』
2001年06月28日(木) ☆大江健三郎体験。

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