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友人のおすすめで、文庫からお借りしてきた。 『ケストナー少年文学全集』の別巻。
サーカス&小びとというと、子どもくらいの背丈を想像するが、 ここで描かれるのは、身長5cmの、 まさに「小さい人」(原題もそうなっているという)。
彼の名前は、メックスヒェン。 思いがけないアクシデントで両親を亡くしてからは、 サーカスの芸人になるべく決意し、 魔術師のヨークス教授に弟子入りする。 弟子といっても、彼らの関係は父と子のようでもあり、 この二人の絆が、奇妙きてれつな物語の芯となっている。
マッチ箱のなかで眠る、小さな人。 自分だけの豆本を印刷してもっていたり、 大きい人の胸ポケットから、こっそりのぞいていたり。 彼の生活描写は、すでにそれだけで面白くて わくわくさせられる。 そんな彼も、ついに教授と一緒にサーカスの大スターとなって、 有名人ならではの事件に巻き込まれてしまう。
メックスヒェンが眠って夢を見るエピソードでは、 不思議な緑や赤の薬で体が大きくなったり小さくなったり。 あの『メルモちゃん』のアイデアはここから?とか、 さらに大先輩の『不思議の国のアリス』を思い出しながら楽しんだ。
ファンに豪邸のようなドールハウスをもらっても、 小びとがこよなく愛したのは、自分になじんだ 古いマッチ箱のベッド。 そして、たったひとりの、親であり仲間でもあるヨークス教授。 いろいろたくさんのものは、結局もてない。 小びとが小さいからではなくて、誰にとっても、 大事なものは、そんなに多くはないのだと。
『木馬のぼうけん旅行』(A・ウィリアムズ)の 木馬が、ピーダーじいさんのもとへ帰るために 苦しい旅をしたように、 『ピノキオ』がゼペットじいさんのもとへ帰ったように、 ラストの小びとと教授の再会は、 メックスヒェンの勇気と冒険の結果である。
この小びとはおもちゃではないけれど、 小びとそっくりに作られた人形も登場し、 奇妙な味わいを添えている。
あとがきによれば、この物語は、 『ふたりのロッテ』が出てから、 じつに14年ぶりに書かれたという。 ケストナー60代の珠玉作品である。 (マーズ)
『サーカスの小びと』 著者:エーリヒ・ケストナー / 絵:H・レムケ / 訳:高橋健二 / 出版社:岩波書店1964
2002年04月02日(火) 『ハリー・ポッターと賢者の石』
2001年04月02日(月) 『カモメに飛ぶことを教えた猫』
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管理者:お天気猫や
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