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実はこの後、ナルシアが続編について書くので、 露払いを請われ(笑)、はたと困惑。 すでに正統派ファンタジーとしての『ハリー・ポッター』は 数々の輝かしい記録と世界じゅうのファンが証明しているが、 そういえば猫やの書評には、ハリポタがないね、と。 あまりにも人気があるから、あえて書く気が 起こらなかったのかもしれないね?と。
ハリポタとの出会いは、くちコミだった。 同世代のファンタジー好きの友人が、 「これ、すっごく面白くて、一気に読んだの」 とすすめてくれたので、彼女のすすめならばと、 すぐに書店で購入。 ああ、子どものころに読んでいたら、とも思いながら、 なぜか途中で何ヶ月か中断し、半年くらいかかって読了。 (現時点で続編未読)
そういえば、映画の予告編を(本編も観たが)観たとき、 ハリーがあまりにととのった明るい顔立ちだったので、 意外な感じがした。私のイメージでは、どちらかというと ハリーの友人のロン役の子がむしろ近い。 ハーマイオニーもえらく美少女だったが、 映画だからなぁ、と納得。
さて、私たち日本の[大人の女]世代にとって、 特に欧州の寄宿学校は、独特の意味をもっている。 少女漫画黄金期の名作といわれる『トーマの心臓』に始まり、 センセーショナルだった『風と木の歌』や 映画『アナザー・カントリー』などの系譜をたどって、 奇妙な翳りを植え付けられてきた私たち (といって私はアナザー・カントリーは未見)。 まあ、数え上げればきりがないほど、 男の子たちの寄宿学校ものには触れてきている。 ホグワーツ魔法学校は、そういう意味では、いや、 そういう場所ではないけれども、どこかでつながって、 (モデルとなった寄宿学校がスコットランドにあって、 某TV番組で紹介されているのを観たが何とも重厚だった) 今をときめく現役の子どもたちだけでなく、 親となった私たちの世代にとっても、 ハリーの世界は親しみやすいのだと思う。
そして、多くの読者が、ローリングがどのような境遇で メガヒットを生みだしたのかを知っている。 彼女は、無名の新人作家として、これ以上望み得ないほどの夢をかなえた。 離婚し(最近再婚したが)、幼い子どもを抱えて貧窮し、 家の近くの喫茶店(同じくTV番組で紹介されていた)に通い、 こつこつと構想を練った。おそらく日々何時間も粘って ハリーの活躍を現実のものにしていった彼女。 並みのシンデレラが根負けするような根気と信念。 彼女のなかには、続編以降の構想も、 映画化の構想も最初からあっただろうし、 みごとな映像化がそれを証明している。 読み手によっては、そうした背景のなかでの苦悩を自分に重ねたり、 戦略的なにおいまで嗅ぎ取ると思われる。
魔法世界のプリンスでありながら、マグル(人間)として 生きてきたハリー・ポッター少年には、 亡き両親への想いや、劣等意識、いじめられた経験もある。 あえて言えば、もう少しだけ、スパイスのある少年で あってほしかった。
いたずらも危険な冒険もこなし、友も得て、至難の競技にも勝ち、 先生たちには平等かつ公然とひいきされるプリンスは、 その「弱さ」、負の部分においても、極限のものが要求されるし、 弱さを越えることによって、信奉者をわがものにできる。 ローリングが身をもって示した非凡さを、 もう一振りだけ、私たちが想像しえないような この少年の悩みに注ぎ込んでほしかったと願うのは、 言い過ぎだろうか。
今、ハリーのヒットによって、このヒーローの源流としての 英国児童文学系ファンタジーにスポットが当たり、 次々と埋もれていた名作が人に読まれ、生き返ってゆく。 これこそハリーの魔法世界を生みだしたローリングから、 母国の伝統たる児童文学系ファンタジーへの、 大きな大きな恩返しだと思うし、 いずれもっと後の話として「ハリー現象」が語られるときに、 附記されるべき白星なのだとも信じる。 (マーズ)
『ハリー・ポッターと賢者の石』 著者:J・K・ローリング / 訳:松岡佑子 / 出版社:静山社
2001年04月02日(月) 『カモメに飛ぶことを教えた猫』
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管理者:お天気猫や
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