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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2004年03月08日(月) --

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『ジンは心を酔わせるの』

友人のおすすめエッセイ。

森瑶子その人は、今ここにはいない。 けれど、彼女のエッセイを読むとき、まぎれもなく 森瑶子はここにいて、生活している。

育ちざかりの三人娘たちと、英国人の夫、 家庭に負担を強いる遅咲きの人気作家業、 本音でしかつきあってこなかった友人たち。 お酒の愉しみ。 呼吸音やため息が聞こえてくるような、 喧騒と静けさをもった、大人の女性の声。

彼女の小説を読んでいない私にとっては、 今はこの一冊がすべてだ。

35歳で初めての小説を書いた森瑶子は、 父親が作家(日曜作家、と書いている)だったために、 いずれ自分も書くことになると予感していたという。 愛情表現のできない母との確執も、書く原動力となったはずだ。 しかし、18歳で読んだサガンに「脳天をなぐられ」、 書くことから遠ざかった。 青春はヴァイオリンに費やされた。 しかし、埋め合わせのごとく、膨大な翻訳小説を読み込んだ。 そして結婚し、あるきっかけで、 堰を切ったように書き上げたのが、最初の小説、『情事』。 時をおいて確実に用意される運命のスイッチというのは、 なんと周到なのだろうと思う。

何かをしなかったこと、するべき時期に 成し得なかったとりかえしのつかない気持 ──これほど空しく、切なく、悲しいことはない。 無念なことはない。後悔してもしきれない。 いまだにその無念さが内側から私を咬んでいる。 (引用)

「できなかった」のではない。 「一番になれなかった」のでもない。 自分の欲することを、何をおいてもしようとしなかった、 それだけが心を惑わす。 それは結局は、そういう成り行きにはならない話だったのだ、 と冷静なときには納得しているのだが、 そしておそらくは、 今こわごわと一歩を踏み出しても、 かつてとは違った意味で道は開けるだろうと知っていても、 そのとき、その年齢でしか感受できない体験を、 人生から受けとろうとしなかったことには違いないのだ。 (マーズ)


『ジンは心を酔わせるの』著者:森瑶子 / 出版社:角川文庫1986

2002年03月08日(金) 『エマヌエル 愛の本』
2001年03月08日(木) 『ガラスの麒麟』

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