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大魔法使いクレストマンシーのシリーズ、 4作中第2作にあたるが、邦訳では連作の完結編(現段階で)。 この世界ではイタリアが都市国家のまま現代にながらえている。 舞台となる架空の小国カプローナは、悪い魔法のたくらみによって、 ローマやミラノ、フィレンツェといった実在の都市との 抗争に巻き込まれてゆく。(ヴェネツィアの名が出てこない、と 思っていたら、最後にちゃんと場所を与えられていた)
クレストマンシーの少年時代を描いた『クリストファーと魔法の旅』 とはまた別の意味で、完成度の高いファンタジー。 保安官のごとく魔法使いを監視するクレストマンシーの活躍ぶりは、 シリーズ中でも白眉といえる。 といっても2作目らしく、あのぼうっとした目つきをしないクレストマンシーは、 強く頼れるヒーローで、とらえどころのなさが魅力の彼とは別人のようだ。
イタリアの小国、そして反目する勢力と聞けば すんなりと受け入れられる、『ロミオとジュリエット』の設定。 ただし、二つの名家モンターナとペトロッキがシェイクスピアと ちがっているのは、これらの家が、代々、大公に使える魔術師の家系 だったということ。 そして、ロミオとジュリエットは一組だが、こちらは何組も カップルができそうなところ(笑)。
「呪文使い」の両家は、歌に乗せて魔法を使い、カプローナの安定と 繁栄を紡ぎ出すのが仕事だった。 お互いに大家族で、相手方を蛇蠍のごとく嫌う彼らにとって、 「カーサ」と呼ぶわが館への愛情、連帯感はイタリアならではの 面白さもあるが、我が身の周辺にあてはめれば痒いところもあるだろう。
主人公のトニーノはモンターナ家の少年。 本人は出来の悪い魔法使いの卵と自覚しているが、一家は少年の 成長をやさしく見守っている。魔法使いにとって重要なパートナーである 猫の言葉がわかるのはトニーノだけだからだ。 そこにペトロッキ家の同じく出来の悪い少女アンジェリカが絡み、 世界を戦争に陥れようとたくらむ悪の勢力と立ち向かってゆく。
途中から重要な魔法のモチーフとなって登場する 「パンチ アンド ジュディ」の人形たち。 これを読んで実物を見たら、気楽に笑い飛ばせなく なってしまうことだろう。 といっても、実際に町角で人形劇を見たことはないのだが。 解説によれば、この英国伝統の人形喜劇のさらに原点は、 イタリアにあったという。
ともあれ、偉大なるローマに連なるイタリアの文化は、ヨーロッパの 人々にとって、泉のような意味合いをもっているといっていいだろう。 イタリアと魔法、という組み合わせは、少なくても私には、最初 しっくりこなかった。しかし、オペラの伝統を思わせる「歌う魔法」と なると、これ以上ないほどのマッチングだと納得したのだった。
もう一冊の外伝短編集『魔法がいっぱい』では、このトニーノと 『魔女と暮らせば』の主人公キャットが 共演する話もあるというので、楽しみである。 (マーズ)
『トニーノの歌う魔法』 著者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ / 絵:佐竹美保 / 訳:野口絵美 / 出版社:徳間書店2002
2002年07月09日(火) 『オリガミ雑貨BOOK』
2001年07月09日(月) 『教養としての〈まんが・アニメ〉』
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管理者:お天気猫や
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