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私の好きなクリスティ作品をあげると、 No.1が『茶色の服を着た男』、No.2が『死への旅』で、 No.3が『バグダッドの秘密』だ。 なんだか、マイナーなラインナップだけど、 私はクリスティのシリーズものが苦手で、 読まず嫌いだとはわかっているけれど、 ポアロもミス・マープルもトミーとタッペンスも ほとんど読んでいない。
だから、高校生のある頃まで、 ミステリ好きでありながら、クリスティとはあまり縁がなかった。 何がきっかけだったのか、ある日、ずらりと並ぶ、 早川文庫のA・クリスティ作品の赤い背表紙に圧倒されつつ、 手を伸ばして、一冊を取った。 裏表紙のあらすじを読み、ポアロでも、ミス・マープルでもなく、 単発の冒険ミステリ(スパイ・スリラー)が何冊もあることを、初めて知った。 一番最初に読んだのが何だったのか覚えていないけれど、 高校生の私は、瞬く間に、クリスティの描く冒険譚に引き込まれていった。 以来私は、ポアロもマープルも出てこない作品だけを、 読むようになってしまった。
その中で特に好きだった冒険ミステリの中の一冊が、 『死への旅』である。 私は、ほとんど同じ本を読み返すことはしないのだが、 最近、どうにも懐かしくなって、 新しく本を買ってきてまで、読み直した。
鉄のカーテンによって、東西に分断された第二次世界大戦後の世界。 西側の優秀な科学者たちが次々と失踪していく。 今また、ZE核分裂という最先端分野を研究していた科学者が消えた。 共産国側の仕業なのか? 真相を突き止めるために、 スパイとして協力することになったヒラリーは、 行き先のしれない目的地へと旅立つ。
この作品が発表されたのは1954年。 この50年で、時代は、大きく変化してしまった。 高校生の頃、あんなにどきどきして読んだはずなのに、 いま読むと、物語のテンポは、緩慢にさえ感じられる。 しかし、もともとクリスティは、スパイ・スリラーといっても、 細部のリアリティにこだわっているわけではないから、 最近のスパイ小説のような緻密で臨場感たっぷりの展開を 求めてはいけない。 未知の世界への冒険と、ミステリの女王クリスティらしい謎解きを あわてずに、ゆったりと気楽に楽しまなくては。
そして、ロマンス。 冒険も、恋もロマンティックなものなのだ。 ヒロインが活躍し、冒険を成し遂げるだけでなく、 ちゃんとロマンスまでも手に入れている。 『死への旅』も『茶色の服を着た男』も、 そんなところが好きだったのかもしれない。 今でこそ、物語のヒロインたちが恋にも冒険にも 積極的にチャレンジして、どちらもうまく手中に収める話は珍しくないけれど、 クリスティのこれらの物語は、先駆けのようなものだったのかもしれない。 高校生の私には、男性顔負けの生き生きと飛び回るヒロインたちが とても魅力的だった。
そして、ゆっくりと時は流れ、 21世紀のヒロインは、昨日紹介のリンダ・ハワードの描く主人公たち。 冒険ロマンス好きのルーツを遡ると、 私の場合、そこにアガサ・クリスティがいた。
ところで、クリスティ。 ミステリや戯曲だけでなく、ロマンス小説も残している。 『春にして君を離れ』とか、そのうち読んでみようと思っている。
※原題は『Destination Unknown』 私の頭の中で、映画『トップガン』の挿入曲の Mariettaのカッコイイ『Destination Unknown』が ついつい、回り出してしまいます。 (シィアル)
『死への旅』 著者:アガサ・クリスティー / 訳:高橋豊 / 出版社:ハヤカワ・ミステリ文庫
2002年07月08日(月) 『ニューヨークの恋人』(その3)
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管理者:お天気猫や
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