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直球ストレートだが、タイトル通り、
英国のとある長高級住宅地で起こった謎の大量殺人事件の
てんまつである。実際に、ではない。
がしかし、そんなことは絶対に起こりえない、
などと無邪気に否定することも、
おそらくはできない。
原題は「RUNNING WILD」。
バラードの近年の作品タイトルは、
「クラッシュ」
「ウォー・フィーバー」(文庫では「第三次世界大戦秘史」と改題)
「コカイン・ナイト」
のように、犯罪への傾倒が顕著で、敬遠気味だった。
「奇跡の大河」以来、久しぶりに読んだのが本書である。
一冊にはなっているが、文字組の上下に余裕をもたせているので、
実質は中短編。
『パングボーン・ヴィレッジ』と名付けられ、
セレブリティーファミリーの住まう、
厳重にセキュリティをほどこされ隔離された住宅地。
1988年6月25日が、事件の起こった日となっている。
すべての家族の大人だけ32人がほぼ同時に殺され、13人の子ども全員が行方不明。
その犯行の真相を、精神分析医ドクター・グレヴィルの日誌が解き明かす。
ドクターと一人の刑事だけが知り得た事実は、
さらに未来への不穏な予測に満ちたものだった。
一対一の殺人にしろ、戦争にしろ、
暴力の現れ方は、状況によって変化する。
だが、人間が人間に対して行う暴力の底には、
共感はできなくとも、引き金となる、くりかえし刻み付けられたパターンが
「必ず」あるはずで、まったくの絵空事から暴力は生まれない、
バラードのそんなつぶやきが聞こえてくるような
始末記であった。
それは、「太陽の帝国」を読んだとき悟った(と思った)、
バラードの初期のSF的イリュージョンの故郷が、
彼自身の過去の戦争体験と陰陽を成して結びついていたことへの、
どこか安心をともなった眩暈に似た感覚を
思い出させる。
(マーズ)
2002年07月02日(火) 「金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲」
2001年07月02日(月) 『ショート・トリップ』
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管理者:お天気猫や
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