2005年06月21日(火)  『子ぎつねヘレン』ロケ見学4日目

網走に来てから晴天が続いていて、連日半袖でも暑い。今日は屋内での撮影だけど、照明を焚くので温度はどんどん上がる。撮影をナマで見るには演出部、撮影部、照明部、ヘアメイク、衣装など何重ものスタッフが取り巻く隙間を縫わなくてはならないので、ビジコン(フィルムで撮影したものを同時に画面でチェックするモニター。CMの撮影で使うものと同じ形。カメラ2台を回すときは、2つのビジコンで見る。録画も同時にして、小道具の持ち方、人物の動き方など他のテイクとの整合性を見るために巻き戻して見たりする)でチェック。監督とスクリプターさんの後ろから、モニターをのぞく形。実際に画面でどう切り取られているのかがその場で見られるし、監督がどんな絵を狙っていて、それがうまくいっているのか意図と違うのかもリアルにわかるし、カット割りの勉強にもなる。

モニターを見ながら何気なく交わされる会話、カット代わりのセッティングの間の雑談も楽しい。獣医・矢島が使う赤い聴診器は、獣医監修の荒井久夫先生が普段使われているこだわりの仕事道具。「普通の聴診器よりも高いんですけどね、いい聴診器は病名をささやいてくれるんです」となかなかいい台詞を言う。「今の台詞、書き留めた?」と監督。原作者の竹田津実先生と昔同じ農業共済の診療所で働いていた縁で、今回はじめて映画に関わることになった荒井先生は、好きなこととやりたいことがはっきりしていて、何事も楽しもうというところに自分と似たニオイを感じる人。

今夜は荒井久夫先生と千代女さんのご招待で、ジャズ歌手のCharito(チャリート)のコンサートへ。会場はセントラルホテルの鳳凰の間。ワインと名物のオホーツク流氷カレー(流氷風デザートつき)をいただきながら、ニューアルバム『Non-Stop to Brazil』からのナンバーに身をまかせる。ジャズやボサノバはパワフルな曲でも心地よくて、聴き疲れしない。大好きな『Over the Rainbow』が聴けてうれしかった。昔本格的に音楽をやっていたという荒井先生は、コメントも玄人っぽい。

友達の多い荒井先生は、知り合いを見つけてはわたしを紹介し、ヘレンの宣伝。今夜のコンサートを呼びかけた鈴木秀幸さんは、網走初日の夜に行った『喜八』をはじめ、網走市内に3つのお店を持つオーナーにして北海道を代表するバーテンダー。ホテルの隣のバー『ジアス(The Earth)』にすぐ戻りますからと言われ、三人でカウンター席へ。「バナナとクリームを使ったフローズンダイキリ風のものを」とお願いしたら、とんでもなくおいしい一杯が出てきた。ここもロケ隊が出没するお店。しばらくして、撮影監督の浜田さんと松竹のプロデューサーの方々が合流。「今井の脚本は、台詞はいいがト書きがよくない」と何度も聞かされた皆さんの共通意見が今夜も顔を出す。占いでもいいことだけ信じてあとは忘れるわたしは、「台詞がいいんだー」ととても前向きに受け止める。でも、ト書きもうまいと言われないと。

2002年06月21日(金)  JUDY AND MARY
1998年06月21日(日)  カンヌ98 2日目 ニース→エズ→カンヌ広告祭エントリー


2005年06月20日(月)  『子ぎつねヘレン』ロケ見学3日目

脚本家というのは忙しい人が多いので、「現場で書く」という状況でなければ、たいていは2、3日で帰るらしい。やることもないのに海外旅行並みに一週間以上滞在するわたしは珍しいケースのようだけど、「17日から25日の間のどこかでお邪魔できたらうれしいです」とプロデューサーに伝えたら、その期間中ずっと滞在できるように飛行機と宿を押さえていただいたので、ありがたく甘えさせてもらうことにした。

毎朝8時にロケバスに乗り込み、午前中の撮影を見て、お昼を食べ、午後の撮影を見る。知床観光に足をのばすわけでもなく、撮影がある限りは現場を見るつもり。「毎日見てて飽きませんか」と聞かれるけれど、同じ瞬間はひとつとしてないし、そのひとつひとつを全部見たいと思ってしまう。母親になった友人が「自分の子どもは毎日見てても飽きない」と言った気持ちに似ているかも。毎日違うといえば、ロケ弁当も楽しみ。今日は冷やし中華と、網走婦人会さんより差し入れの三平汁と煮物(美味!)。食後には、獣医監修の荒井久夫先生が「ぜひ皆さんに食べていただきたい」と大量注文してくれた幸栄堂菓子舗のシュークリーム。クリームが濃厚な北海道の味に感激。

今日は獣医・矢島幸次役の大沢たかおさんとはじめてお話しする。ひとつひとつの作品に真剣に取り組まれ、役を自分のものにする役者魂を感じる。矢島役は大動物獣医の仕事着といい、父親という設定といい、子どもや動物に振り回される役柄といい、今までにない顔をいくつも見られそうで、一観客としても楽しみ。

午後は太一役の深澤嵐君と子ぎつねのスチール撮影を見学。居合わせた観光客が子ぎつねに目を留め、「キャーかわいい!」と大騒ぎ。「今井さん、ヘレン、当たるんじゃないですかー」「きつねは引きがあるねー」と宣伝担当嬢とわたしもはしゃいでしまう。

2004年06月20日(日)  日本一おしゃべりな幼なじみのヨシカのこと
1998年06月20日(土)  カンヌ98 1日目 はじめてのカンヌ広告祭へ 


2005年06月19日(日)  『子ぎつねヘレン』ロケ見学2日目

顔見知りはちょっとずつ増えているけど、まだまだ知らない人だらけのロケ現場。「お前、みんなに紹介してもらったか」と撮影監督の浜田毅さんが声をかけてくれる。「ええ、なんとなく」と答えた瞬間、「おーい」と声を張り上げて現場の注目を集め、「こちら、脚本の今井さん」。一気に顔が売れた。今井雅子デビュー作の『パコダテ人』を撮影した浜田さんと照明の松岡泰彦さんがいてくれるのは、心強い。「野生班」のあだ名がついた実景撮影班の葛西誉仁さんも『パコダテ人』ぶり。現場で知り合った人と現場で再会すると、とても懐かしい気持ちになって、ほっとする。今日のロケ弁当は「揚げ物」または「八宝菜」のチョイス。給仕を担当するのは車両部さん。

昨日出番がなかった律子役の松雪泰子さんにご挨拶。お美しい。話し方はさっぱりしていて、気さくに話しかけてくださる。ロケには毎日いろんなお客様が見学に見える。わたしも長期滞在型ゲストではあるのだけど。やることのないわたしは、お客様が来てくれると、話し相手ができてうれしい。この日のお客様は、以前から心惹かれていた人。脚本を書くようになってから、会いたいと思っていた人に会えることがずいぶん増えた。

夜は焼肉を食べながら宣伝会議。サイトで何するか、どうやってパブを取る仕掛けを作るか、ノベルティは何がいいか……こういうブレストは、話せば話すほどアイデアが浮かんできて飽きない。原稿渡してはいサヨナラじゃなくて、わたしは売り込み作戦にも首を突っ込みたい。広告人の血なんだと思う。

2004年06月19日(土)  既刊本 出会ったときが 新刊本
2003年06月19日(木)  真夜中のアイスクリーム


2005年06月18日(土)  『子ぎつねヘレン』あっという間の見学1日目

7時前に起きて8時出発のロケバスにぎりぎり乗り込む。わたしが一番最後。時間厳守が現場のオキテ。早起きが苦手なわたし、これから一週間寝坊しないで過ごせるだろうか。はじめて会う人ばかりだけど、皆さんそれぞれの仕事に動き回っているので、隙を見てつかまえご挨拶。クランクインするまではモテモテの脚本家、クランクインしてしまえば本は手を離れ、お呼びではない。邪魔にならないようにわが子のたのもしい成長を見守るのみ。

動物がたくさんいるせいか、現場の雰囲気はとっても和やか。子役の深澤嵐君の和み効果もあるのかも。スタッフの名前と専門をすべて把握しているという嵐君、挨拶も元気よくて、いいムードメーカーになっている。撮影の内容はどこまで書いていいかわからないので、「ここまで書いていいよ」の許可が出たら書き足すとして、今日の撮影は予定よりずいぶん早く進み、お昼を食べてちょっと撮ったらもう終わり。予測不能の動物がOKテイクを出してくれると、長めに取っている「動物待ち」時間が浮くというわけ。ヘレン出演者の動物たちは演技派が多く、このところ連日、日が暮れる前に撮影が終わっているのだとか。

オフの時間は各自思い思いにマッサージに行ったりボウリングに行ったり買い物したり洗濯したり。着いたばかりのわたしは、今日知り合った宣伝担当の女の子とオホーツク流氷館へ。学生時代に行って流氷の部屋で凍えた記憶があるけれど、あらためて行ってみると、テーマパーク的な面白さがあった。案内嬢によるユーモアたっぷりの説明、流氷を空撮した迫力の映像、お土産売り場も充実。マイナス20度の流氷部屋には、キツネがお出迎え。『ヘレン』の成功をよろしくと手を合わせる。入口で手渡された濡れタオルをぐるぐる振り回すと、カチコチタオルの出来上がり。「網走で撮影された映画」という展示の中に『きつね』という作品を見つける。1983年の松竹映画。

2000年06月18日(日)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/26)


2005年06月17日(金)  『子ぎつねヘレン』ロケ地網走は歓迎ムード

羽田発女満別行きの最終便で網走着。東京よりちょっと涼しいかなという感じ。クランクインした5月半ばはダウンコートが必要な寒さだったとか。網走駅前にできたホテルルートイン網走にチェックインし、「関係者は一度は通る道」という『酒菜亭 喜八』に連れて行ってもらう。「くじらのベーコン」「納豆茶漬けチーズ入り」など面白いメニューが充実。網走の書店では「ただいまロケ中」のPOPをつけて原作の『子ぎつねヘレンがのこしたもの』が平積みされているとか、地元紙にはでかでかと記事が出ているとか、タクシーの運転手はほとんど知っているとか、網走での『ヘレン』知名度は上々、ロケも順調に進んでいる様子。

2000年06月17日(土)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/26)


2005年06月16日(木)  Hidden Detailのチョコ名刺

一緒に『冷凍マイナス18号』を手がけ、ひと足先に会社を辞めてフリーになったアートディレクターの古川ジュンさんが、今井雅子独立名刺をデザインしてくれた。「チョレートで」とイメージを伝えると、「外袋つけたら?」「銀紙巻いたら?」とアイデアが膨らみ、「なんでチョコなの?」の疑問に応えて、「Life is bitter and sweet like chocolate」のメッセージを外袋に入れることに。印刷屋さんも面白がってノリノリ。お値段もノリノリで、一枚で板チョコ一枚分也。フリーは自分の名前で仕事していくわけだし、ひとり歩きメディアである名刺に、ちょっと贅沢してみました。

ホリエモン氏行きつけの海南鶏飯食堂(古川さんと同期入社で、わたしは労働組合でご一緒した中西さんが経営)をはじめ、数々のお店やブランドのアートディレクションを手がける古川さん。事務所の名前『Hidden Detail』(ヒドゥン・ディテール)は、「隠れたこだわり」の意味。今井雅子チョコ名刺も外袋に賞味期限がついていたり、バーコードが携帯の電話番号になっていたり、芸が細かい。

板状の外袋を糊付けして袋にし、名刺に銀紙を巻くのは、わたしの手作業。銀紙はあちこち探し歩いた結果、「アルミホイルがいちばん合う」ことを発見。かぶせるだけだとパカッと外れてしまうので、糊でくっつける。チョコ香水で香りをつければ完璧。

名刺用に作った「いまいまさこカフェ」ロゴでリンクバナーも作っていただき、「mチョコ」壁紙でサイトのトップページもチョコ仕様に。

2002年06月16日(日)  一人暮らしをしていた町・鷺沼
2000年06月16日(金)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/26)


2005年06月15日(水)  『秘すれば花』『ストーリーテラーズ』

■ドリームテキストライターの岩村匠さんのお誘いで、六本木ヒルズ森美術館へ。映画館の手前にある『カーテンコール』というお店で腹ごしらえ。昼休みなので、美術館に勤めるわたしの友人T子と、ヒルズ勤務の匠さんの友人Aちゃんも呼び出して、四人でにぎやかに。美術館立ち上げから関わっているT子からは、「すごくいいからぜひ観に来て」と言われ、「行く行くー」と返事しながら、なかなか約束を果たせずにいた。今やってるのは、『秘すれば花:東アジアの現代美術』と『ストーリーテラーズ:アートが紡ぐ物語』。匠さんが目をつけていたギャラリートークなるものに参加すると、学芸員さんが作品を説明しながら案内してくれる。説明があるとないでは大違い。作品を見る目が変わるというか、作品を楽しむ視点を増やしてもらえる感じ。東アジアにおける現代美術と伝統芸術の融合に光を当てた『秘すれば花』は、風水の発想を取り入れた順路をたどると、「天井と床が逆転していて、天井に寝そべれる部屋」やら「虫眼鏡であちこちに隠された小ネタを探すトイレ」やら、わくわくする作品が待ち受けている。作品に流れる物語に着目した『ストーリーテラーズ』は、アートを「読む」鑑賞方法を提案。展望台フロアでやっているロバート・キャパのカラー写真展やミュージアムショップも楽しんで、半日たっぷり遊んで帰る。

2002年06月15日(土)  『アクアリウムの夜』収録
2000年06月15日(木)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/26)


2005年06月13日(月)  『猟奇的な彼女』と『ペイ・フォワード』

■レンタルDVDを宅配してくれるTSUTAYA DISCASで、ひと月4枚届けれてもらえるコースに入っているのだが、見るぞという時間を作らないと、なかなか見きれない。見終えた2枚を返却すると次の2枚が宅配される仕組みで、借りっぱなしだと会費だけが引き落とされることになる。で、今日は見るぞの日。すごくいいと何人から勧められたかわからない『猟奇的な彼女』と、同僚二人に「今井ちゃん好みだと思う」と勧められた『ペイ・フォワード』。『猟奇的な彼女』は、脚本のうまさに感心。キャラクター設定、伏線の張り方、大事な台詞をどんなシチュエーションで言わせるか、本当にうまい。登場人物にどんどん惹きこまれていって、心憎いラストがあって。「偶然とは努力した人に神様が与える橋」というメッセージもよかった。『ペイ・フォワード』は、pay backじゃなくてpay forwardという発想が好き。one ideaで世界を変えられるかという問いかけも面白い。みんながpay forwardの気持ちを持てば、本当に世界が変わりそうな気がしたし、何度か台詞に使われている「respect」も、それが大事なんだよねと気づかせてくれた。偽善的な夢物語になりそうなテーマをぎりぎりのところでリアリティを保っているのは、世の中きれいごとばかりじゃないよという部分をちりばめているからか。でも、わたしが書くなら、ラストに悲劇は持ってこない。犠牲がなくても共感を呼べたのに、と思うのは楽観的すぎるだろうか。

2004年06月13日(日)  映画『ヒバクシャ 世界の終わりに』


2005年06月12日(日)  惜しい映画『フォーガットン』

ホストファミリーの一人娘Allisonが結婚するので、プレゼントを求めに銀座『夏野』へ。色鉛筆箸、電車箸など眺めているだけで楽しい。原色にラインストーンっぽい輝きを配した夫婦箸と西瓜の箸置きに決める。花嫁のパパ&ママであるDadとMomにもデザイン違いのものを贈ることに。

銀座まで出たついでに何か観ていこう、と『フォーガットン』。亡くなった息子が生きていたという記憶が失われていくというストーリー。愛する者の存在を喪ったとき、遺された者は故人と過ごした思い出を訪ねるしかない。それさえも喪われることは、怨霊よりも恐怖をかきたてる。アルバムやビデオから息子の姿が消え、夫さえも息子などいなかったと言い出し、何も信じられなくなる前半はかなり面白いが、途中で肩透かしを食らう。「シックスセンス以来の衝撃」が謳い文句なのだが、淡々としているようで最後にアッと言わせたシックスセンスとは逆パターンで、ラストの印象が尻すぼみ。これでは作品がforgotton。

記憶というのは、生きている証だと思う。同じ時間を過ごしたのに、自分の持っている記憶が他人には残っていなかったり、他人の持っている記憶が自分にはなかったりするのは、自分の存在自体が捻じ曲げられるようで怖い。数年前、友人の妹が体験したという怖い話を聞いた。女の子四人で電話受付のアルバイトをしていたとき、「助けて」という電話があり、指定された場所へ駆けつけたのだが誰もおらず、「幽霊だったんじゃないの?」「やだ、気持ち悪い」と大騒ぎしあった。それから1年ほど経って四人が再会したとき、友人の妹が「あのときの幽霊騒ぎ」を持ち出したところ、あとの三人はまったく覚えていなかった。あれだけインパクトの強い事件を忘れるわけはないのだが、「そんなことはなかった」と言い切られ、幽霊騒ぎのときの何倍も鳥肌が立ったという。


2005年06月11日(土)  東京大学奇術愛好会のマジックショー

どうしてこうもマジックが好きなのか。学祭では奇術研究会のショーに一日中入り浸っていたし、テレビのマジック番組も見始めたら動けなくなる。だから、近所の掲示板に貼りだされた「東京大学奇術愛好会マジックショー」のポスターを見つけた日から、今宵を楽しみにしていた。

会場は、家から歩いて五分のところにひっそり佇む小さな公民館。靴を脱いで上がった畳には、お母さんに抱かれた赤ちゃんからお年寄りまで、余裕で百人を超えるご近所さんがぎっしり。おなじみのロープやカードやハトを使ったマジックが披露されるたび、大人も子供も同じタイミングで声を上げ、驚く。とはいえマジシャンはアマチュアの学生さん。手元に集中するあまり、表情はちょっぴりぎこちなく、うまくきまった瞬間にいきなり笑顔になるのはご愛嬌。上級生になると、トークを交える余裕も出てくるようで、ショーの合間に司会者が見せるマジックは、軽妙なトークでも会場を沸かせた。

「手の中に入れた黄色いハンカチが卵に化ける」ネタの種明かしは、市販されているマジックグッズ。中が空洞になっている卵のおもちゃを手の中に隠し、空洞部分にハンカチを押し込んでいく。「(このグッズを)もうひとつ持ってきたんだけど、誰か挑戦してみますか」と客席からボランティアを募ると、元気のいい男の子がステージへ。司会者と並んで見よう見まねでハンカチを押し込み、手を広げると、黄色いハンカチは白い卵に。ここで会場は拍手喝采。さらに会場が沸いたのは、その後。「もっと練習すると、こんなこともできますよ」と、司会者が手の中の卵をワイングラスの淵で割った次の瞬間、グラスの中に黄身と白身がつるり。いつの間に本物の卵とすりかわっていたのか。拍手も割れんばかり。

「この中に1万円札をお持ちの方、いらっしゃいますか。その1万円を増やすトリックなんですが」の声に勢い良く手を挙げたおじさんは、「では、その1万円札を半分に破いてください」と言われ、何回も躊躇しては笑いを誘い、ついにビリッ。半枚になったものを司会者と1枚ずつ持ち、おじさんは手の中の2分の1万円札を握り締め、司会者は残りの2分の1万円札を紙に包み、これまた会場から募ったライターで火をつける。炎に包まれた2分の1万円札が消え、「開けてください」と言われたおじさんが恐る恐る手を開くと、手の中のお札は元通り無傷な1万円札に。これには悲鳴に近いどよめきが起こった。わたしは後ろのほうで見ていたのだけど、見入るときは前のめりになり、驚くときはのけぞる客席の反応が見えるのも楽しかった。

マジシャンを独り占めできたらどんなに楽しいだろう。去年の暮れ、その願いが叶った。友人のマジシャン・ジョー君と二人で飲む機会があり、カウンターでこれでもかというぐらいカードマジックを見せてもらった。あまりに無邪気に喜んでしまい、その数時間で3才ほど若返った気がしたほど。番組ディレクターでもあるジョー君が去年携わったNHK『ものしり一夜づけ』のマジック特集「今夜はマジックづくし」は、評判が良くて再放送を重ねた。担当したアナウンサーもプロデューサーもマジシャンで、スタッフもマジックづくしだったそう。

2002年06月11日(火)  『風の絨毯』同窓会
2000年06月11日(日)  10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/26)

<<<前の日記  次の日記>>>