鷺沼のスタジオでTVCF撮影の立ち合い。といってもコピーライターに期待されていることは特になく、「見たかったら見においでよ」という気楽なご身分。自宅から東急田園都市線の鷺沼駅までは、1時間と少し。
上京してから二年前まで、この町で暮らした。三軒茶屋や二子玉川では家賃が高すぎて、手に届く物件を求めて西へ西へと流れてきたら、鷺沼に着いた。高校卒業まで暮らした泉北ニュータウン(大阪・堺市)の『泉ヶ丘』駅に似ていた。それで「この町に住もう!」と決めた。アパートの隣の部屋の住人は、こともあろうか同じ会社の同じ部署の男性だった。その先輩が結婚を機に引っ越し、先輩の幼馴染みが新しい隣人になった。関西出身の楽しい兄ちゃんだったが、数年後、「結婚するんで広い家に引っ越しますわ」と言って、いなくなった。このまま何人見送ることになるのかと危ぶんだら、2人で止まった。8年も住んでいたので、いろんなことがあった。そんなことを思い出しながら、鷺沼駅からスタジオまでの道を歩いた。駅には新しい階段ができ、家の近くの角にあった豆腐料理の専門店は美容院になり、知らない店がぽつぽつとある。たった二年で町の顔はずいぶん変わっていた。
はじめてシナリオコンクールに出した作品『月のなる木』は、「昔住んでいた部屋に合鍵を使って入る」女の話だった。懐かしいアパートの前を通ったとき、たまたま不動産屋に返しそびれた鍵を持っていたとしたら……扉を開けてみたくなる衝動はわかる気がする。あいにく、わたしの手元に鍵はなく、見知らぬ誰かがが暮らす部屋に忍び込めたのは、想像力だけだった。
BANK #7 訳:いまいまさこ
And remember that time waits for no one. Yesterday is history. Tomorrow is a mystery.Today is a gift. That's why it's called the present!!!
覚えておいてほしい 時間は誰も待ってくれないことを 昨日は歴史 明日は神秘 今日は贈りもの だから「現在」は「プレゼント」という |
2000年06月16日(金) 10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/26)