僕らの日常
 mirin



  虚像空間2@謡

窓がブラインドウとカーテンに覆われた部屋。

太陽の光は届かない
私達の身体にはただ危険だから

白熱灯の光がぼんやりと部屋の中を照らしている。


「飛びたいなぁ、こう…ぶ〜んて」
「ぶ〜ん?」

真壁センセイが帰った後、私と宇宙は病室へ戻った。
部屋へ入ると、私達と同い年の琥珀が模型の飛行機を
振り回しながらくるくる回っていた。

「そう、飛んだりたいんよ」

どこか、イントネーションの違う口調で話す琥珀を
チラリと見て、私は口を挿んだ。

「ウタも飛びたい。ソラは?」
「ぼくは…いいや。今は飛びたくない、かも」
「え〜?面んないよ。んなん」

宇宙は、んー…と暫く考えてから小さく答えた。
それに納得がいかないらしい琥珀が抗議の声を上げる。

「ウタは飛びたいよ。
隙あらばピョーンて脱出するのよ。ね?」
「ねえ」

もう一度、繰り返すとウンウンと琥珀が頷いてくれた。

「危ないよ」

宇宙は、少し慌てるように言った。

「じゃ、ソラは飛ばなきゃいいの。青空はあんなに
素敵なの、一回見たくらいで罰なんか当たらないわよ」

頬を膨らましてそっぽを向いた私にはその後の泣きそうな
宇宙の表情なんか見えなかった。

2005年04月28日(木)



  虚像空間1@真壁

扉を開くと、青い空が広がっていた。
部屋には、自分が知らない空<セカイ>がただひとつ。



暗い闇の中でもわかる白い建物
中は、また白い
天井に壁、男も女も皆白い布を纏っている。

室内に立ち込める独特の薬品の匂いに眉を顰めて
口許に手を当てて早足に通り過ぎ自販機の前へと足を進めた。


「こんにちは。」
「「…こんばんわ。」」

揚げ足を取るように返された言葉にぼくはウッと
言葉を詰まらせる。

「おそよー」
「こんちはー」

ニコリ

性質の悪い微笑を浮かべる少年少女をため息を吐いて
軽く睨みつける。
そんなぼくを見ても臆することなく2人ははまた少し笑った。


「もう馴れた?」
「馴れる...というか、同じことの繰り返しだもの。
馴れる前に飽きてきちゃったわ」

ほら、私飽き性でしょ?
クスクスと小さな子供がイタズラを思いついたときの様に
少女は笑う。ぼくは自販機に硬貨を入れボタンを押した。

「コーヒーがいいのにー」
「風邪治ったら、買ってあげるよ」
「それは、もうけね。」
「もうけって、きみね」

横に並ぶ少年が少女の言葉に可笑しそうに小さく笑った。

「きみは、コーヒー?」
「ソラも同じの」
「聞いてるのは彼の意見です」
「ちぇー…」
「ウタと同じの」

「やりぃ」

迷いなく答えた少年の声に少女は、満足そうに声を上げる。
僕は、見上げてくる。ふたつの瞳に「またね」と呟いた。

2005年04月17日(日)
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