(SleepWalking)



あと一歩
 
近づけば、良いのに
出来ずにいる愚かさ
階段はあと一段
降りて
あのこの隣に座ったら
あなたの顔も、正面から見れるのに
どうして立ち止まるの
なにも変わらない
あなたは
あたしを知らないままで
あたしは
大きな容器に入れられた
たくさんの金魚のいっぴき
そのくらいにしか
なれない


あなたの向かいに陣取っている
彼女が正直、羨ましかったわ
きっかけすら掴めないでいるあたしと
対照的なあのこ
なにを思ってるかなんて知らない
あたしもそこに、居たかった
それっぽっちの勇気も出せないまま
そのまま
うずもれて
死んでしまう
あたしのちいさな思いが、そこに
倒れて駆けだしてもがいてる
あなたの背中が邪魔をする
見ていられたら幸せだ、なんて
あたし
そんなかわいい子供じゃないから
あなたの耳に静かに欲情したまま
暑さに身を任せている
あと一歩
踏み出せたら、どんなに良かっただろう
思い出しても戻らない
時間を無視した臆病者

2004年06月30日(水)


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薄紅色
 
視線の先に入れないように
慎重に見つめている
あなたの影


視界から外さないように
懸命にとらえている
あなたの姿


手を伸ばしても届かないカミサマの生きるところ
あなたは
光の先に消える影
くちづけても死なないあぶくの人魚
いつか消えて
薄紅にはじける
ふわり
柔らかなかたちで
あなたの眼に溶ける


ここに焼きついた
どうしようもなく淡いことばは
支配する
いつまでも
あなたを焦がすまで
その冷たい指先で
あなたを焦がすまで

2004年06月26日(土)


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あさ
 
うるさくすずめが鳴くのです
あなたが起きてくれないとわたし
からすに目をつぶされてしまうの、と
泣いているのです


おろかなすずめ


お前の目など


わたしの


知ったことか!


するとすずめはさらに激しく泣き出したのです
ぽろぽろと雨を降らすちいさな目
つぶされなくたって
零れ落ちてしまいそうなほど
おおきななみだ


ああうるさい


お前そんなになけるなら


からすにも泣いてやれば良いじゃないか


お前のその声で


からすの耳を壊してやればいい


するとすずめ
こくりと頷き飛び去った
その夜
わたしの家の大きな木に
からすが一羽引っかかっていたのです
耳を枝に突き刺して


なるほどすずめはその声で


からすを殺したらしい


からすのもっとも大切な部分を


ひといきにぶちこわして


そしてわたしは考えたのです
うるさいすずめは同じように
わたしが羽と嘴を
もぎ取ってしまえばよかったのだ、と
わたしは刃物を取り出した
それは暗い部屋に鋭く光る
明日のあさを切り出すための
高価な道具なのです

2004年06月19日(土)


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左手小指
 
もうだめ


って呟いた


そう


って返ってきた


あなたは


どこまで知っているの


そのまま突き放して


一番楽に


してくれた


ありがとう


空の果てから


指切りげんまん


左利きのあなた

2004年06月17日(木)


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運休
 
しっかりと


しっかりと抱きしめあっていても


一向に暖かくなれないのは


あたしもあなたも冷たい人形だからでしょう?


目の前で止まった電車がそのまま空気を轢いても


一切の摩擦熱も生じないのと同じ


動いていても止まっていても


冷たく死んでいるのよ


奥の方に横たわっている


大切な場所は。

2004年06月06日(日)


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うとうと
 
昼下がり


まだ君が目覚めたばかりのころ


からっぽになったお腹を抱えて


あたしは電車のなか


うとうとと運ばれてゆく


たんぼがかわいらしく彩られて


アスファルトは雨が乾いた色


このまま運ばれていこう


知らない場所へ


君の届かない場所へ


もう二度と思い出せないよ


さよなら


きらきら輝いてた


あのとき。

2004年06月02日(水)


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