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■ 電車小噺
私がまだ電車で大学に行っていたころ、帰りにほぼ必ずおなじ人が隣に座っていた。
そのころはまだ旧型の車両で、心配性でめんどくさがりな私はトイレのすぐ横の席を陣取っていたのだ。 そしてその隣に「すみません」だか「いいですか」だか言ってサラリーマンみたいな壮年の同じおじさんが座ってくる。 上の網に仕事用の鞄を置いて、新聞をばさっと広げる。 そして30分くらい読んだあと、おもむろに新聞をとじて網棚に置き、眠るのだ。
毎日同じ座席に、 同じ人が、 毎日同じことをしながら座っていた。 この人も遠いところから頑張って通勤しているんだなぁ、 などと毎日思っていたら、なんだか親近感が湧いてきた。
髪は白髪というか銀髪が混じってきていて、 みたところなんとなく40〜50代のような雰囲気。 ということは私と同じくらいのお子さんがいたりするのかな、 会社で毎日仕事をしてるんだな、こんな年を重ねても長距離通勤なんて大変だな、 自家用車を使わないのは橋代が高いからかな(瀬戸大橋は往復一万くらい)、 だから頑張って(快速だけど特急でもない)電車で通ってるんだな、 家庭の中でこの人はどんな感じなんだろう、この人の人生や生活って・・
などと色んな考えが浮かんでくる。
たまに居ない時があると、何かあったのかな、大丈夫かな なんて思い、次の日の「いいですか」を聞いてちょっとほっとする。
だがある日その電車が新型のものに変わり、 座席数が少なくなったので以前のような贅沢な場所取りはできなくなり、 空いてるとこならとにかくどこでも、といった具合に色んなところに座りだしたときから、 その人の姿を見ることはできなくなった。
何か話しかけてみようかな、なんて思っていたけれど、 結局お話などしないまま、未だにその人を見かけることもない。
私は細かく枝分かれしたものの上を歩いていて、 たまにほかの人の枝道とものすごくニアミスするように見える、 もしくは立ち止まってその道に立ってる人をずっと見ていて、 そちらに歩いていこうか迷う。 そうこうしているうちにその枝道はすうっとどこかへ紛れていき、 自分も歩き始めている。 あの時あちらのほうにちょっと寄り道していたら、道端の花ぐらい発見できてたのだろうかと思いながら。
そんなことが、結構ある。
2005年01月21日(金)
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