こんなに好きでもいいですか? すみれ 【MAIL】【HOME】
- 2002年07月13日(土) 私の知らない人
何も無い一日になるはずでした。
彼は午前中に近所の人の車に、オークションで落札してあげた
スピーカーを取り付けてあげると
昨晩のチャットで言っていました。
御互いの家の人には、内緒との事でした。
オークションで御買い物をした事も、
PCを弄ってオークションで落札してあげた事も、
知られると文句を言われるので、内緒の作業だと言っていて、
私は「何て窮屈な環境の中で生活している人達なんだろう・・・」
と思って居ました。
私だったら・・・・そんな事で文句なんて言わないのに・・・。
そう思っていました。
お昼過ぎにメッセを開いてみると、オフラインを残しておいてくれていました。
夕方にはメールも来ていました。
私は突然、思い立って夜の予定を変更しました。
今日は子供を保育園に迎えに行った後は何処にも出掛ける予定は
ありませんでした。
何時ものように食事の仕度をして、子供と2人で御飯を食べて、
少しテレビを見た後、御風呂に入って子供の身支度を整えたら、
添い寝をしてあげて・・・・・・。
同居人の帰りは今日も遅いはずなので心配はしていませんでした。
私は急いで子供を迎えに行き、猛スピードで食事の用意をして食べさせたら、
或るグランドへと車を走らせました。
家から近い、その場所は30分も走るとすぐに見えてきました。
ナイター用の照明が照らされた、そのグランドは
もう数人の人がボールを蹴って練習をしていました。
5分位待つと、試合が始まるようでした。
まるでコンサートに来た様に胸がドキドキしました。
「○番・・・○番・・・・。」
私はある、ゼッケンを背中につけた人を一生懸命目を凝らして探していました。
フェンスの反対側の路肩に車を止めてジッと転がるボールよりも、
そのゼッケンの人を見ていました。
そうです、私は今日・・・・。
予定は3試合でした。
最初の試合は守備位置が近くて50mも離れていない所で
彼はボールを追っていました。
近くまでボールが来ると30mも離れて居なかったと思います。
私は近くに彼が来る度にドキドキしました。
でも、彼は私の方を見ませんでした。
まさか、私が見に来ているなんてコレッポッチも解らなかったと思います。
2試合目は反対側のグランドだったので、遠くてナカナカ見えなかったです。
3試合目は他のチームの試合で彼のチームの試合はそれで、終了の様でした。
私は壁に持たれ掛かっている彼を見つめながら、
彼の名前をつぶやくと、何故か涙がポロリと落ちました。
彼の横で、試合観戦しているチームのサポーターの人達が、
とても、羨ましく見えました。
「こんな車の中からじゃなくて、私もあそこへ座りたいのに・・・。」
そう思うと益々、切なくなりました。
チームの人と談笑している彼・・・。
歩きながら、ボールを片付ける彼・・・。
私は今まで、私と一緒に居る彼しか知りませんでした。
私以外の人と一緒に居る彼を見たのは初めてでした。
私の知らない彼・・・・。
私の彼って誰なんだろう?
あそこで笑っている人は一体誰なんだろう?
少し試合を見に来てしまった事を後悔しました。
「もう帰ろう」
そう思ったのですが、私はそこを動く事が出来ませんでした。
ただ遠くから彼の事をジッと見ていました。
暫くするとグランドの清掃が始まりました。
丁度、掃除用具を片付ける時に近くまで歩いて来たので、
私は彼に解るように車を発進させたのですが、
やはり、気がつかない様子でした。
「車って何処に止めてあるんだろう?」
私はグラウンドの裏の駐車場回って見ました。
そして、一方通行の道に出ると「ここを通って帰るはず・・・」
そう思い、少し待っていました。
「何の為に私は、ここで彼が出て来るのを待っているんだろう?」
今日、彼はチームメイトを乗せて帰る事になっているので、
もし、解ったとしても車を止めて話をする事も出来ないはずです。
私はそれを解っているのに、自分の行動を自分でも理解できませんでした。
「やっぱり、こんな所で待っていたって・・・・」
そう考えていると1台の車が私の横を通り過ぎました。
運転席には確かに彼が乗っていました。
後続車が居ない事を確認して、
私はまるで刑事ドラマに出てくる尾行車のように、
車を滑り出させました。
大きな道に出るまでズゥーっと後ろを走っていました。
丁度、大粒の雨が降り出して、
「あぁ〜。試合の後の雨で良かった・・・。」
運転しながら考えて、きっと彼もそう思っている筈と思いました。
彼の帰り道と、私の帰り道は違うので、
十字路に差し掛かる一歩手前で車線変更をして、
彼の車を追い抜きました。
チラッと横を見ると助手席に乗っていたチームメイトと笑顔で話をしている
彼が見えました。
「あぁ・・・・満足なんだな・・好きなサッカーが出来て・・・。」
私はそう思うとアクセルをふかして十字路を曲がり帰路につきました。
帰り道、少し考えて、
「このまま別れて彼と逢えなくなっても、時々こうやって試合を見に来れば
いいんだな・・・・
でも・・・私の知らない彼を見たら、もっと悲しくなるだろうな・・・・。」
楽観的な考えと刹那的な考えと・・・。
又、頭の中がグルグルして来てしまいました。
家に戻ってみるとメールが1件来ていました。
「Subject:すみれ〜
ひょっとして・・・見にきてた〜?○駅近くのモスの辺りで抜かして行った
すみれの車を見たよ・・・ボロ負けしたけど・・・応援してくれていた?ありがとうね」
あぁ〜やっぱり、解ったんだねと思い、少し嬉しかったけれど・・・
又、少し寂しくなって子供を御風呂に入れて寝かせた後、
何時ものように一人でボトルを空けてしまいました。
少し眠った後、起きてみると
もう空は明るくなり掛けて居ました。
pcを起動させると彼はずっとメッセで待っていたようでした。
何時もよりも一段と上機嫌の彼・・・・。
「すみれが見に来ているって解ったら、もっと張り切っていたのに〜」
そう言う彼の笑顔が少しだけ見えるような気がしたけれど、
やっぱり、私の切ない気持ちは言えなくて・・・・。
益々、もう弱音は吐けないんだな・・・と思ってしまいました。
私が今日、見ていたのは誰ですか?
貴方は私の彼ですか?
聞きたかったけれど、息を飲んで
私は流れて行くログだけを見つめていました。