結婚と不倫と離婚の間
蒲公英



 転出の朝

子供の小学校入学の事があるので、早く住民票を移動させて、入学の手続きをしなくてはいけない。
金曜に市役所で転出届を出して、土曜に実家に帰った。

クルマで帰省するので、宅急便では運び辛いそうな荷物を運ぼうと、午前中、荷造りをした。
途中、何度も涙が出て、作業出来なかった。

何が悲しいのか?
夫への未練か?
これからの生活への不安か?

頭の半分で自問自答しながら、かなり派手に泣いた。

夫はずっとリビングテーブルに座ったままで微塵も動かなかった。
多分、私の目が赤く腫れぼったくなっているのに気付いているだろうに、何も言わず、何もしなかった。

何かを言われても困るし、何もして欲しくもなかったけど、何もない事が寂しいような気がした。

2階の子供部屋の買ったばかりの学習机に座り、私はまた泣いた。

新しい机を娘はとても喜んだ。

いずれ離婚となってもこの机は娘がもらえるだろうが、この机の置き場はもうここではないのだ。
見晴らしの良い子供部屋の窓際に立って、涙が流れ出た。

窓からの眺めが娘にどんな楽しい空想をもたらすのかと、あまり好きではない我が家で唯一私のお気に入りだった部屋。
ごめんね、と娘に申し訳ない気持で一杯になった。

立っていられないほどになり、私は学習机に座りこみ声を上げて泣いた。

私だって幸せな家族・家庭を望んでいた。
それぞれが仕事や勉強で忙しくても、休日は家族揃って楽しく過ごす事を夢みていた。
何故、それだけの事が出来なかったのだろう?
いつから、私は、一人ぼっちだと感じるようになったのだろう。

「嘘つき!」と泣きながら叫んでみた。

結婚前、夫は私の両親に「娘さんを幸せにします!」と宣言したのに、、、
嘘つき、、、

「私が悪いんじゃない! 貴方が悪いのよ!」
そう声に出して言ってみた。

ほんとは私も悪いと分っているけど、そう言ってみた。
ちょっとだけすっきりして時計を見ると、もうお昼を回っていた。
早く出発しないと、今日中に実家に辿りつけなくなる。

最後にクルマに積むつもりだった1番大きな箱を抱えて階下に降りた。
階段でジタバタしている私に気付いて、夫が手を貸してくれた。
何も言わず。

全部の荷物を積み終えていよいよ出発だ。
「気を付けて」と夫が力なく言った。
「うん。じゃ〜」
夫と目を合わせられなくて私はクルマに乗り込んだ。

(続く)


2003年03月16日(日)
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