(SleepWalking)



北国
 
あの人が何処に行ったのかわからないけれど、
わからないからこそわたし、北に走ったのよ

と、彼女は言った。
あの人は雪が好きだったそうだ。
それも、この国の最も北の岬で見るのが
大好きだったそうだ。

あの人は岬から消えた。
海に落ちたのかもしれないし、
船に切り刻まれたのかもしれないし、あるいは
誰かと東の国へ逃げたのかもしれないが

彼女はそれを知らないのだと思う。
あの人にまた逢えると信じているのだ
果たしてそれが叶うか叶わないかに関わらず
雪に触れに行ったのだと信じているのだ。

電話口の彼女は微かに震えて、けれど
まだ優しく笑っているようだった。
次の朝、彼女はこの町の西で死んだ。
珍しく雪の降った夜が明け、彼女を見つけたのは
他でもない、あの人の影だった。
あの人の姿は未だに見えないままだ

2005年03月31日(木)


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