2011年06月24日(金)  思い出とご縁のフレンチ「シェ ルネ」最後の晩餐

広告代理店マッキャンエリクソンのコピーライターになり、関西から東京に出て来た20代のはじめ。CM制作でお世話になったプロダクションの葵プロモーションに連れて行ってもらったお店で、「フレンチ」の概念をひっくり返された。

それまでわたしが大阪と京都で食べてきたフレンチといえば、「バターたっぷりソース」。さらに、ジュレにしたりテリーヌにしたりの見た目も味つけも趣向を凝らし、一言で言えば「こてこて」という印象があった。もちろん、こてこて大好きなわたしは、そのこてこてを愛していたのだけど。

その店のフレンチは、違った。最初に運ばれたアスパラとトマトのサラダがそれを象徴していた。アスパラはアスパラとして、トマトはトマトとして、シンプルに存在していた。その新鮮な素材の味を最大限に引き出す最小限の味つけがされていた。

メインのステーキは、一枚ではなく一塊という単位で数えるほうがふさわしい形状で、外はこんがり、中に肉のうまみを閉じ込め、これまた肉が肉らしさを発揮できるよう寄り添うソースが心憎い塩梅でからめられていた。

出される皿がことごとくこんな感じで、「これがフレンチなのか!」「これもフレンチなのか!」と、わたしは目をみはり、食べてはとろけた。

それから何年かして、カンヌ国際広告祭へ行き、本場フランスのお店へ行ってみると、野菜や肉や魚の素材が主張している皿にたくさん出会ったのだけど、当時はとにかく、わたしの知っているフレンチと、その店のフレンチはまったく違っていた。

そのお店は東銀座にあり、「シェ ルネ」といった。

会社員時代に何度かごちそうされる機会があり、自分でお金を払って食べに行ったのは、会社をやめる少し前、社内の女子会で行ったときだけだった。それも、もう6年前のことだ。

2005年5月20日(金) 『シェ・ルネ』→『ラ・ボエム』8時間の宴


このときお店で居合わせたのが、短歌の会「猫又」で知り合った宮崎美保子さんで、美保子さんとルネはわたしがルネを知るはるか前からの長いおつきあいがある。気の合う人のなじみの店が、自分の好きな店という偶然にはご縁を感じる。

その美保子さんから「ルネが6月に閉店するから一緒に行きましょ」とお誘いがあり、今宵、ひさしぶりの、そして最後のルネへ行ってきた。

トマトとアスパラは健在。あらためて、なんとおいしいこと。



集まったのは、5人。わたしと美保子さんの他に3人。

美保子さんに誘われ、一年だけ参加した高円寺の阿波踊りで出会った建築家の横山夫妻とは、5年ぶり。おなじく美保子さんに誘われ、面白そうと参加したものの仕事が忙しくなって数回で脱落してしまった勉強会「日本の風」で知り合った大内由利さんとは、2年ぶり。

横山氏の高校時代からの友人がわたしがマッキャンで一緒に仕事していた人という偶然は、ずいぶん前に発見していたのだけど、今夜は大内さんとわたしを結ぶ線が次々と発見された。

大内さんがプロデュースされている人形作家の恋月姫さんが、わたしがファンレターを書いたほど熱を上げた綾辻行人さんの小説のモデルであり、恋月姫さんのビスクドールが綾辻さん原作の映画に出演しているとか、大内さんが『篤姫』のスタジオ見学をしたときに案内したのがわたしの大学時代からの友人だったとか。

ムール貝を頬張りながら、またつながった、と興奮した。




そもそもわたしと美保子さんの「猫又」つながりも不思議なご縁。『パコダテ人』の撮影で知り合った宮韻△いちゃんのマネージャーさんに勧められて投稿した短歌が、単行本『短歌があるじゃないか』に載っていた。それを、会社で隣の席だったデザイナーの名久井直子が、猫又主宰の穂村弘さんの友人という縁で読んでいた。「この『いまいまさこ』って今井ちゃん?」と教えてもらってなければ、その後、美保子さんちで開かれた猫又飲み会に参加することもなかった。

2004年12月11日(土)『猫又祭』に初参加

偶然のようでもあり、必然のようでもあり。縁って面白い。楽しくて、ワインが進んだ。もちろん、あらためて力強い感動を届けてくれた食事たちの力も大きい。



別れを惜しむ常連さんたちで、店は満席。名前をようく存じ上げているあの作家さんが、これまたようく存じ上げている装幀家さんと飲んでいた。美保子さんは開高健さんや椎名誠さんとテーブルを囲んでいた若い頃の思い出話をしてくれた。その頃を知っている人には、なおさら名残惜しいだろう。

先日訪ねた本郷三丁目のロシア料理店「ベスナー」は今宵、7年の歴史を閉じたが、店はそこに集う人と作られて行くものであって、その店がなくなるということは、場所がなくなる以上にぽっかりと何かが失われる気がする。けれど、何十年も店を切り盛りして来たシェフ夫妻の顔は晴れやかで、これからの計画を生き生きと語るのだった。感傷を感じさせないのではなく、通り越したのかもしれないし、店を閉じてから、淋しさはやって来るのかもしれない。

わたしがルネで食事をしたのは、片手では足りないけれど両手では余るぐらいの回数だろう。それでも、一回一回の食事に深い感銘を受けた。あのアスパラとトマト、ステーキの味は、ずっと忘れられないだろう。

しみじみと、最後の晩餐を味わった。

今日のtwitterより(下から上に時間が流れます)
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そんな考えから生まれた歌『春の小川2004』→ http://j.mp/jeIz8G QT @y_kurokuro 「地球は、親の代から預かって、子孫に譲り渡す『借り物』」という考え方もあるようです。借りているものだから、次代の人たちも気持ちよく使えるようにしておかなければ
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6/16付読売「顔」に「しあわせ節電」を訴える言語社会学者の鈴木孝夫さん。「地球を所有する」という発想に膝を打つ。「地球も自分のものだと思えば大事にするし、節約も楽しんでできる」。物を捨てられなかったわたしが「家がもったいない」と発想を変えた途端執着を断てた、その超拡大版。
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