3日遅れだが、娘のたまが3歳3か月になった11月22日は9回目の結婚記念日だった。
記念日好きのわたしとは対照的に記念日無視なダンナは、なぜか去年、前日に「記念日ランチはどうか」と提案し、神楽坂のフレンチの店に予約を入れ、成長(そして歩み寄り)を感じさせたが、今年は何も考えていなかった。去年は誰かに入れ知恵でもされたのだろうか。
そこで娘が気をきかせたのかどうかはわからないが、今年の当日朝、「きょう じいじばあばの おうち とまる」と言い出したので、急遽、夜どっかに出かけようかということになった。
新宿ピカデリーのレイトショーで『沈まぬ太陽』を観よっか。
だったら、その近くの気になってたイタリアンで晩ご飯食べよう。
と、話は決まった。
娘を預けに行くのに手間取り、ダンナと落ち合えたのは、6時半。そこからピカデリーで座席をおさえ、店(Briccola=ブリッコラというトラットリア)に着くと、7時前。上映は8時半から、駆け足のディナーになるなあと思ったら、「一時間半もあるね」とダンナ。「記念日のディナーに、一時間半でおつりが来るなんて言っちゃダメよ」と言いつつ、しっかり食べて店を出てからユニクロで買い物する余裕があった。話題はほとんど子どものことだし、せっせと女の子を口説く隣のテーブルを見ると若いなあと思う。結婚9年目って、こんなものかしらん。
映画の感想もまっ二つ。インターミッションをはさんで3時間を超える大作を観終えた第一声は、「いやー、見応えあったねえ」とわたし、「いやー、そうかな」とダンナ。「いやー」しか合ってない。
『沈まぬ太陽』は、映画『子ぎつねヘレン』『ぼくとママの黄色い自転車』、連続ドラマ『快感職人』でご一緒した井口喜一さんがプロデューサーで参加。音楽は「つばさ」の住友紀人さんで、斎藤興業の水村役の市山貴章さんも出演。さらに、『〜ヘレン』律子役の松雪泰子さん、『ぼくママ』琴美役の鈴木京香さん、『天使の卵』特別出演の三浦友和さんの三人が主要な役どころ。録音の郡弘通さんは『パコダテ人』でお世話になり……と今井雅子作品に縁のある方がたくさん参加されているが、贔屓を差し引いても、スクリーンで観てよかった、いいものを観たという満足感を大いに得られた。それなのに……何が不満か?
でも、帰る道すがら、どこが受け付けなかったかを聞いてみると、「組合をやっていようとなかろうと、どの企業でも僻地への異動はあるわけだし、それを飛ばされたと思うんじゃなくて、そこで飛んでやろうっていう意地を見せてほしい」ということらしい。主人公・恩地が不本意な異動にくさらず、地に足着けて結果を出す姿が描かれているとわたしは受け止めていたが、言われてみれば、結果を出すまでの過程は描き足りなかったかもしれない。それは時間の問題もあるだろう。恩地を演じる渡辺謙の迫力が行間を埋めていたとも言え、この人の存在感が映画の重厚感そのものだったなと感じた。
もうひとつ、ダンナが引っかかっていたのは、「完全なフィクション」だとうたいつつ明らかに事実がベースにあり、実際に起きた事故が描かれている以上、ノンフィクションが混ざっていることが、観る側を戸惑わせるということだった。エンターテイメントとして鑑賞するには、事実が重すぎるという。
ダンナの指摘にはうなずけるところもあり、なるほどねえと面白い議論になった。とにかく、映画を観て意見が一致することはめったになく、二人そろって「いい!」となったのは『大統領の理髪師』と少し前の『フィッシュストーリー』ぐらいで、『風が強く吹いている』も、わたしは感涙、ダンナは失笑という天と地の差があった。天と地といえば、「行天」「恩地」と登場人物の苗字で性格を対比させるのは面白い。『白い巨塔』の財前、里見しかり。
作品のモデルとなった企業は映画へのネガティブキャンペーンに躍起になっているというが、その点については、「映画を観て、かえって希望を持った」というのが二人の一致した意見だった。原作を読んでいないので、タイトルの「沈まぬ太陽」は輝かしく君臨し続ける企業の有りようを例えたものだと思っていたら、そうではなく、どんな圧力にも屈することなく胸に燃え続ける強い信念を指しているらしい。
結婚生活は、赤々と燃えなくとも、せめて穏やかな光を灯し続ける「沈まぬ月」であればよろしいか。
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