2009年09月02日(水)  やっぱり面白かった『南極料理人』

先日の日記(2009年08月28日(金) 『映画とたべもの』と「レシピに著作権がない」問題)に「すごく観たいし、関わっている人がうらやましい」と書いた『南極料理人』をテアトル新宿で観る。ロビーではペンギンのボーリングピンなどかわいい撮影小道具がお出迎え。上映15分前で最前列を残すのみの盛況。徒歩3分のバルト9『ぼくとママの黄色い自転車』の入りはいかがか、と気になる。

冒頭、雪煙に視界が曇る一面の氷野原にドームから駆け出してくる男たち。「もうイヤなんです!」と逃げ出す若い隊員に追いつき、「お前が強くなるしかないんだ!}と年配隊員が肩を揺さぶる。スポ根ノリの熱い映画なのかと思わせておいて、次のシーンでお茶目にオチをつけ、なるほど。この作品の力の抜き具合を知ると同時に、食べものだけでなくてムードもおいしそうだと身を乗り出した。

「とにかく食べものがおいしそうなのよ」「ラーメン食べたくなるのよ」とすでに観た人が口々に言うので、食材が限られた極北の地ならではのB級グルメが目白押しかと思いきや、堺雅人演じる料理人が腕をふるうメニューの数々に目を見張った。乾物と冷凍野菜、自家栽培のスプラウト類でこれだけの食事を作れてしまうとは。手抜き主婦のわたしに任されたわが家の食卓よりも豊かではないか。南極での食事と言えば、味気なくそっけないものを勝手に想像していたので、これには驚いた。映画的な脚色がどこまでされているのか、本当にこんな感じなのか、原作の体験記『面白南極料理人』を読んでみたい。

食事はもとより南極観測隊の生活についてはほとんど知識がなく、それゆえに「個室はこうなっているのか!」「トイレはこうなっているのか!}「電話があるのか!」などといちいち新鮮に驚くことができた。「平均気温マイナス57℃ 日本との距離14000km 究極の単身赴任!」と公式サイトにあるが、異文化体験をのぞくような面白さがある。今や海外旅行は珍しくないけれど、観測隊員として派遣される人の数はとても限られていて、そうそう遭遇できるものではないから、その土産話に興味が湧くのは当たり前。ずいぶん昔、幼なじみのフミちゃんのダンナさんが観測隊で南極へ行くということを実家の母が興奮気味に電話してきたが、稀少価値でいうと「甲子園出場」以上だろう。

日本に残した家族や恋人との物語が挟まれると、季節感のない観測隊の毎日に、時の流れが感じられる。家族とのやりとりのベタベタしない感じがリアル。毎日顔を合わせる隊員同士もだんだん家族になっていくが、家族ならではの「必要最小限のことしか言わなくてもわかりあう」感じが良く出ている。逆に、最初は「おう」「おうおう」で通じあっていた恋人との電話の会話が時間とともにぎこちなくなっていき、遠距離恋愛の終焉を感じさせるところもうまかった。この若き隊員の恋の結末は、とても好き。劇場映画初監督の沖田修一監督が脚本を書いているが、自然なセリフがとてもいい。達者な役者さんの力なのか、演出がうまいのか、絶妙な間で笑いを確実に取っていたのはお見事。雪と氷の世界なのに、滑らない。

欲を言うと、料理人以外はどういう仕事をしているのか、あまり描かれていなかったけれど、見やすい長さだったし、料理がメインなのだから、いいのかもしれない。車両担当さんは具体的には何をするのだろう。料理については、思った以上の眼福を味わわせてもらった。ラーメンもさることながら、ローストビーフのジューシーな肉汁にはおなかが鳴った。湯気までおいしそうといえば、去年観た『しあわせのかおり』。もしかしてカメラは同じ芦澤明子さんではとエンドロールに注目したら、当たり。この人の撮る食べものは、スクリーンを通しても鮮度が落ちない。

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