打ち合わせを終えた帰り道、新しくできたインドカレー屋の前で足を止めた。今夜は娘を預けているし、ダンナの帰りも遅い。一人分の夕食をテイクアウトのカレーで済まそう。
うちに帰る頃にはナンもカレーも冷めていたので、レンジで温め直す。ナンは皿に移したが、カレーを皿に移すのを「洗い物が増える」からと横着した。プラスチック容器をレンジにかけて大丈夫なのだろうかと一瞬疑問が頭をかすめたが、「コンビニのお弁当もチンしているではないか」を根拠にレンジで2分。取り出そうとして、後悔した。容器の丸い口が楕円形にゆがみ、変形している。
あわてて皿に移し、2種類あるうちのほうれん草カレーを口につけると、明らかにプラスチックの味がする。もう一方のマサラカレーはさほど気にならないので、そちらだけを食べることに。だが、マサラカレーだけ無傷ということはあるまい。バターと生クリームで誤摩化されているだけだ。平らげてからプラスチックの味がこみ上げてきて、「まずい」と思った。空腹のあまり冷静さを失っていたけれど、これは食べてはいけなかったのである。
「プラスチックを食べてしまった!」とあわて、「どうしよう」と焦ったが、後の祭り。溶けたプラスチックが体の中で固まったりしないだろうか。職業柄、たちまち想像力スイッチが入り、胃壁に張りついたプラスチックをリアルに思い浮かべてしまう。子どもの頃、幼なじみのヨシカに「チューイングガムは飲み込んでも外に出て行かへんねんで」と脅され、ガムを飲み込むくせのあったわたしは、それまでに胃に納めた大量のガムが胃壁にベタベタイボイボとくっつく図を想像し、心底震え上がった。ヨシカは「あと、トマトの皮も」と言ったので、赤い皮も張りつき、グロテスクな眺めとなった。
忘れかけていたその恐怖がプラスチックとともに蘇った。プラスチックの材料は石油だっけ。でも、合成着色料も石油ではなかったか。だったら、少々口にしても健康を脅かすことはないか。でも、有害物質が溶け出していたら……。生命の危機に瀕すると、人間の頭は高速回転するものだと感じる。
こういうときは、とりあえずネットに聞いてみる。「溶けたプラスチックを食べた」で検索すると、同じ失敗をした人がたくさん見つかり、まずは安心。「電子レンジで変形することがあっても、よっぽどの高熱でなければ溶けない」という意見がある。歪んだプラスチック容器をよく観察すると、ところどころ透けるぐらい薄くなっていて、溶けたように見えるのだが、「変形」だと解釈することにしよう。でも、明らかにカレーは石油臭い味がしたのだが、「プラスチックの匂いを味だと勘違いするケースがある」らしい。万が一、プラスチック溶液が口に入ったとしても、「食品に使われるプラスチック容器は安全性をチェックしているので、命を脅かすような有害物質は基本的には使われていない」という。ちなみにコンビニのお弁当などに使われるプラスチック容器は「レンジOK」の材質なのだとか。
質問掲示板に駆け込んだ「プラスチック食べちゃった人」が寄せられた回答にお礼を書き込めているということは、「命に別状なし」の何よりの証拠。「大丈夫そうだ」と気が大きくなると、気分も良くなったが、命が縮む思いを味わって、カレーも味わうどころじゃなかった。皿洗いをケチるものじゃないなと反省。
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