先日、朝の情報番組に市川染五郎さんが出演して、江戸川乱歩を歌舞伎でやると紹介していた『江戸宵闇妖鉤爪(えどのやみあやしのかぎづめ)』。これ、観たいなあと思ったら、念ずれば通ず、数日後にダンナの友人から招待券が二枚舞い込んだ。ダンナが仕事で行けないというので、以前一緒にバレエを観たカヨちゃん姉妹に声をかけると、お姉さんがつきあってくれることになった。
お姉さんと会うのは今日が3度目。そのうち一回は挨拶をしただけなのだけど、自称「ブログストーカー」で、いまいまさこカフェ日記を愛読されてすっかり今井雅子通なので、話は早い。歌舞伎ファンのブログも見歩いていて、「顔出ししている人が多いから、今日も見かけて、声かけそうになったわ。でも顔出しって危険よねえ」とお姉さん。勘が鋭く、会ったことのない人のブログから異変や事件を嗅ぎつける鼻が利くのが自慢で、妹のカヨちゃんからは「姉をモデルにブログ探偵ってドラマ書いて」と売り込みがあった。カヨちゃん姉妹と以前盛り上がった「百均刑事(ヒャッキンデカ)」()特技のひとつにブログ解読を加えてみようか。
さて、肝心の舞台は、火を噴いたりワイヤーで吊って立ち回りしたり、首外れ人間やろくろっ首が登場する妖しい見世物小屋あり、大凧での宙乗りありで、とにかく派手で見応えがあった。染五郎は恋人(商家の娘お甲)と愛人(女役者お蘭)を相次いで人間豹・恩田に殺められ、気がふれてしまう侍と人間豹の二役。恩田に狙われる明智小五郎(松本幸四郎)の女房・お文はお蘭に似ているという設定で、恩田の標的にされる三人の女は、市川春猿の一人三役。
人間豹と明智の対決という明快な筋立て、台詞も現代語調でわかりやすく、イヤホン解説なしでも十分ついていけた。わたしのように歌舞伎を見つけない観客には、打ってつけ。乱歩の世界を江戸時代の設定にうまく移した脚本は、ケダモノのような猟奇殺人者として見えていた人間豹・恩田の葛藤と苦しみをあぶり出し、人間を傷つけるしかない彼の生き様に同情すら覚えさせてしまう。恩田の母(彼女もまた人間豹)は行き場のない捨て子に手を加え、異形の見世物として育てているのだが、その行為を悪だと断じることができるのか、子どもを捨てる人間はどうなのだ、と明智に恩田が突きつける場面、松本幸四郎と市川染五郎の父子対決の緊張感もあいまって、目が離せない名勝負となった。また会おうと明智に言い放ち、大凧とともに宙に舞った恩田の大見栄に、拍手が鳴り止まなかった。シネマ歌舞伎『文七元結』もよかったけれど、やはり生の迫力は格別。
思いがけない招待券で、いいものを見せてもらった。開演前、カヨちゃんのお姉さんが「私なんかが誘ってもらっちゃっていいのかしら。瓢箪から駒だわ」と言った。「もう少ししっくり来る表現があったような」とわたし。渡りに船でもないし、二階から目薬でもないし。「引き出しを開けたらお饅頭が入っててラッキーって感じなんだけど」とお姉さんが言い、「引き出しに饅頭。なんか近い気がします」などと言っているうちに幕が開いた。そして、2時間半後。「よかったねえ」と劇場を後に歩き始めたときに、「棚からぼた餅!」と思い出した。饅頭がぼた餅にたどり着くのに、歌舞伎一本。チケットのお礼にと、お姉さんから長崎・福砂屋のカステラをいただく。二切れ分が個装になった食べきりサイズ。ぼた餅にカステラがついてきた。
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