2008年03月18日(火)  『スパイダーマン』のプロデューサーの言葉

部屋を片付けていたら、余白にびっしりと走り書きをしたプリントが出てきた。昨年9月20日(木)に明治大学で行われたアヴィ・アラッド氏の講演のメモ。「日本のコンテンツ業界のグローバルな発展」をめざして開かれたCOFESTAというイベントの一環で、「日本コンテンツの魅力〜映画プロデューサーの視点から〜」と題し、『スパイダーマン』『X-MEN』などを手がけたプロデューサーが語るというもので、知り合いの映画関係者と誘いあって聞きに行った。

世界に名だたるプロデューサーはどんなカリスマ性を持った人物かと期待し、勝手に恰幅の良い押しの強い大柄男を思い描いたのだけど、壇上に立ったアヴィ氏は拍子抜けするほど腰が低く穏やかに話す人だった。ハリウッドのプロデューサーといえば、さぞかしプレゼン上手だろうという予想も裏切られ、抑揚をつけない淡々とした話しぶりはノートを読み上げる教授のような印象を受けた。この調子でどうやって企画を成立させているんだろうと不思議に思ったほどで、「交渉の場ではすご腕なのかも」と想像したり、「裏表のなさそうな人の好さが武器なのかもしれない」と推理したりした。

あえて言えば、真っすぐで純粋で誠意の感じられる人物だった。映画好きのシャイな少年がそのまま大人になって、自分がやっている仕事の大きさにも気づかず、ただ好きなことを夢中になっていて、人前で話をと言われても、芝居がかったことはできず、目の前の一人に話すように話してしまう、そんな印象を受けた。

講演のときは、作品の派手さとプロデューサーの地味さのギャップに気を取られてしまったけれど、見つけたメモを読み返すと、面白い。「スパイダーマンは最初なかなか企画が売れなかったが、原作を読んでいないソニーピクチャーズの会長が脚本を気に入ってリスクを負った」「ジェームス・キャメロンが監督候補だったのに降りたのは、ずっとやりたかったのに待ちくたびれたのだろう。ようやくいいよと言われて冷めたのだ」といった『スパイダーマン』の製作秘話は興味深い。

「映画はsoulを持つこと、希望を与えることが大事」「映画の中で起きていることが自分にも起こりうる共感をかきたてる」「どんな映画にも見たことがないものがある、この映画で観客が見たことのない何を見せられるかを考える」という映画論。「映画作りにおいて、誰かが将軍でなければならない」「プロデューサーは唯一すべてを確かめ、方向を見定める存在。一つの映画に関わり続けるモチベーションが求められる」というプロデューサー論。「病気やケガは映らないが存在する」「映画はDNAテストするわけにいかないし、誰が父親かあいまいになっている」「よっぽど夢を持っていないと監督はできない」という言葉も味がある。「映画を作るのは、細かい砂を積み上げて、砂が山になるような作業である」という謙虚な言葉に人柄がうかがえる。

質疑応答で「どうやって制作資金を集めるのか」と問われた浴アヴィ氏は、「小さな映画は身近な家族や友人から始まる。パイロット版を作り、お金を集め、大きくしていく」と答えた。ハリウッドの大作を手掛けているからといって資金集めの苦労がないわけではない。作品への愛を持ってコツコツと説得の砂を積み上げているのだろう。日本のコンテンツの可能性を問いかけた質問には、「どのコンテンツがどの国のものかわからない。世界は小さくなっている」という答えだった。

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