「本谷有希子さんの芝居行かない?」とシナリオご意見番のアサミちゃんに誘われて、「行く!」と即答した。アサミちゃんは共通の友人であるヤマシタさんがやっている「プチクリ」という演劇批評のフリーペーパーのレイアウトを担当していて、前号が「本谷有希子」特集で、ご本人に会ったり、「劇団、本谷有希子」公演を観に行ったり、本谷さんの小説を読んだりして、すっかりはまっているのだった。
「本谷有希子作」の他に事前情報として仕入れた「ダンダンブエノ」がタイトルたと思ったら、ダンダンブエノは劇団の名前で、お芝居のタイトルは『砂利』といった。幸せを噛み締めた頃に壊しに来ると言った昔いじめた相手からの復讐を恐れ、その人物が来たときに音でわかるよう家の周りに砂利が敷き詰められている。怯える男には身重の妻がいて、兄と居候もひとつ屋根の下に住んでいる。さらに妻の姉が訪ねてきて、家政婦代わりとなって一緒に住むようになる。兄弟、姉妹、夫婦、家族であるのに知らなかった、いや、家族であるからこそ知られたくなかった秘密の結び目が少しずつほどけて明らかになっていく過程にスリルがある。
場面転換はなく、すべての出来事は砂利に囲まれた家の中で起こる。それぞれどこか屈折している登場人物たちの会話の応酬で新事実が提示され、展開が変化していく。役者が達者でなければテンポの悪い芝居になってしまう恐れがあるけれど、最後まで張り詰めた緊張感を緩めることない出演者の呼吸はさすがだった。とくに妻の姉役の片桐はいりさんの絶妙な間の取り方とコミカルな動きには目が釘付けになった。うまいなあといつも感心させられる山西惇さんを見られたのもうれしかったし、はじめて舞台で見た坂東三津五郎さんも味があった。登場人物たちが溜めていた感情を爆発させて砂利を踏み鳴らすシーンが印象的。動かすと均衡が崩れて音を立ててしまう「砂利」は、各々の生活や感情の中にある平穏や秩序のようなものなのかもしれない。
「本谷さんがいちばん興味あるのが、憎しみという感情なんだって」とアサミちゃん。わたしがいちばん描くことが苦手な感情でもある。その部分をあぶり出す作品で勝負し、評価を獲得している本谷有希子という才能には、この人にしか描けない世界という強烈な個性を感じる。舞台作品が映画化されて公開中の『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』も観てみたい。
劇団ダンダンブエノ双六公演「砂利」 7月21日(土)〜31日(火) スパイラルホール
作:本谷 有希子 演出:倉持裕 音楽:ハンバートハンバート
出演 坂東三津五郎 田中美里 片桐はいり 酒井敏也 山西惇 近藤芳正 |
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