就職活動をしていた頃、会社説明会の最後に質疑応答の時間になり、さっと手を上げた男子学生がいた。彼の質問は、「給料はいくらですか」。担当者が何と答えたのかは覚えていないけれど、その場の空気が「びっくり!」したことは妙に生々しく覚えている。
そんなことを思い出したのは、このところ「脚本家っていくらもらえるんですか」という質問メールが立て続けに舞い込んだから。発信者は脚本家志望の人たち。その職業を志すからには収入を知っておきたいということなのだろうけど、家族だって遠慮して聞けないギャラの話を見知らぬ人がイキナリ聞ける便利な時代になってしまった。
「おいくら」と聞いてくる人たちには共通点があって、わたしの作品には一言も触れていない。はじめてのメールで自己紹介もそこそこに本題に入るので、誰にしてもいい質問をなぜわたしにしてきたのかわからず、なんと答えたものか困ってしまう。……と、先輩脚本家に相談したら、「そんなヤツには答えなくてよろしい」と一喝した上で、「テレビドラマ1分で1万円。でも長者番付には載れない、と僕は答えている」とのお返事。30分ドラマで30万円という目安。新人の場合はその半額強、というのはわたしの感覚。ラジオはさらに単価が下がるし、映画はギャラが支払われるかどうかギャンブルみたいなところもある。
デビューほやほやの脚本家が仮に30分ドラマを1日で書き上げたら、日給15万円。でも、原稿を渡しておしまいということはまずない。本打ち合わせを元に初稿を直していくわけだけど、改訂稿が二桁に及ぶこともあるし、途中で白紙になって企画から練り直しという事態もよくある。脚本にする前にはプロットを固める作業があるし、企画段階から関わった場合は、シナリオを書き出すまでに何か月も打ち合わせを重ねることになる。
時給に換算したことはないけれど、わたしの場合、直しがほとんどない仕事でも「時給ン万円」にはならないし、「時給ン百円」という仕事もありえる。そんな風に計算すると、脚本家は割に合わない仕事だし、ネーミング100案出して数十万(これもかなりの幅があるけれど)というコピーライターのほうがずっと儲かる。漣ドラがヒットしてビデオ化されてノベライズも出て……となれば話は別だけど。写真は、ここ半年のボツ原稿。全部を書き直しているわけではないけれど、書いたもの全部をプリントアウトしたわけでもない。でも、これだけ書いた先に「作品」が生まれている。
ギャラはもちろん大事だけど、脚本家にとっていちばんのごほうびは書いたものに命が吹き込まれることだと思う。自分の頭の中だけにあったものが形になって、たくさんの人に届けられる贅沢。これは一度味わったら、やめられない。というわけで、わたしの答え。「楽して儲けることははできないけど、お金で買えない楽しいオマケがついてきます」。
でも、忘れちゃいけない。脚本家もコピーライターも、書けばギャラがもらえるわけではないのだ。書いたものが全部現金になるなら、わたしだって、とっくに御殿を建てている。「いくらもらえるか」を心配するより、「どうやったらお金になる脚本を書けるか」「どうやったら作品化への道が拓けるか」に頭を悩ませたほうが建設的だし、そういうことであれば多少はアドバイスできるのだけれど。
2002年07月30日(火) ペットの死〜その悲しみを超えて
2001年07月30日(月) 2001年7月のおきらくレシピ