■獣医師の石井万寿美さんが新著『ペットの死〜その悲しみを超えて』の出版にあわせ、大阪から上京された。打ち合わせでお忙しい合間の1時間をいただき、赤坂でお会いする。「3回目ですねえ」と言われ、「まだそれだけでしたっけ?」と驚いたが、お会いするのは今日でやっと3回目。ネットの力は恐ろしいもので、毎日のようにメールや掲示板でやりとりしていると、何十回と会っている錯覚を起こしてしまう。最近ニュースでも取り沙汰されている動物虐待の話にはじまり、石井さんの子育て話、わたしの仕事の話などをした。目を怪我したネコが運ばれてきたとき、「炎症が痒くて自分で掻いて傷つけてしまったのか、人間に故意に傷つけられたのか」を見分けるには、ネコの手を診るらしい。目を掻いたネコには「目やにやけ」の跡があるのだとか。「そういうことを飼い主さんに言うて聞かせるんです。推理探偵みたいですわ」と石井さん。■お土産に著書と叶匠壽庵の和菓子をいただいた。栗を大納言で包んだおまんじゅうを頬張り、早速読み始める。石井さんは、獣医学生時代に拾った犬のユキチと、ずっと一緒に生きてきた。結婚、開業、出産、子育て……生活の中にユキチがいるのが当たり前で、ユキチとの暮らしが永遠に続くようにも思っていた。だが、ユキチも老い、痴呆がはじまり、寿命を迎えてしまう。獣医でありながら「ユキチだけは死なない」と信じてしまったり、弱っていくユキチに何もしてやれない自分がもどかしかったり。飼い主としてペットの死を体験することで、石井さんは「ペットを失う悲しみ」の大きさと深さを知る。そして、これまでペットを失った飼い主たちの気持ちがわかっていなかったがために、飼い主たちの心のケアができていなかったことに気づく。ユキチが死をもって教えてくれた「いのち」の意味を、石井さんは今、日々の診療に生かしている。ペットにも高齢化の波が押し寄せ、痴呆や安らかな死は人間だけの問題ではなくなっている。人間と同じようにペットの死にも尊厳をと考え、終末医療の考えを取り入れようとしている石井さんの試みは、ペットを家族として愛しむ人々が待ち望んでいるものだろう。
2001年07月30日(月) 2001年7月のおきらくレシピ